嫦娥の花宴 | ナノ



冷たいはずのソレなのに、なんでだろうね。

酷く…温かかった気がしたんだ







『白い』
「…」
『冷たい』
「…」
『結晶』
「…」
『融ける』
「…」
『そして冬。…あとはなに』
「こーんどはなんの言葉遊びだ?」

吐く息が白い、そんな場所で。
天から降るのだというソレを見上げ呟けば、少しだけ後ろから届く笑い声。
視線は移さずに、また一つ。
言葉を落とす

『考えてたの』
「へえ。なにをよ」
『捲簾がくれた言葉の、意味』
「…言葉じゃなくて"名前"だけどな」
『うん。その、語源をだよ』
「そりゃまたどーして」
『大好きだから』
「…」
『捲簾がくれた私の名前…誰にも負けないくらい凄く素敵な名前だと思ってる』
「そのわりには、妙に複雑そーなカオしてんのね」
『なんでかなって』
「ん?」
『雪の別称、そして…唯一無二という意味。これを持ったその言葉を、どうして数ある言葉の中から引き抜いたのかなって』
「あー」
『捲簾言ってたよね。"それらしい文献読み漁った"って』
「よく覚えてンな、そんな昔の事」
『私からしたらものすごく最近の事だよ』
「ははッ、それもそーか」
『活字嫌いだって言ってた』
「おうよ、今でもちょー苦手」
『なんで』
「なんでだろーな」
『私の髪が白銀だから』
「ま、俺の大好きなソレをイメージしたってのは正直半分は正解だな」
『…はんぶん』
「残りの半分は、次郎神に教えて貰っただろ?」
『唯一無二の存在』
「おう。天界に年がら年中咲いてるあの桜じゃなくて、この世でたった一つしかねぇ存在…それが、俺にとってお前なんだよ」
『…』
「だからその言葉を選んだんだ」
『…下界にだったら、同じような意味を持つ言葉、たくさんありそうなのに』
「だーから言ったろ?俺がイメージしたってのも、半分は理由なんだよ」

茶色の大地を一面染め上げるだけの量が、眼前に広がっている。
すぐ隣に立ち並んだのを視界の隅で捉えれば笑われた
…寒いハズなのに、あたたかい。
なんて、単純すぎるってまた笑われるかな

『銀、白、月、雪、黒』
「覚えてましたか」
『覚えてますよ。大切な人の言葉だから』
「照れるだろ」
『嬉しそうに笑いながら言われても説得力ないからね、それ』

サク…サク…サク、と。
踏み鳴らす音が静寂に木霊する中で、いつのまにかこの手を包んだ大きな手は

とても、とても。

泣きたくなるほど、あったかかったんだよ





頬を滑り落ちたそれは、雪か…それとも。













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