嫦娥の花宴 | ナノ



季節の変わり目は、身を包むものの選別が難しい。





「もうすっかり秋ですねぇ」
「秋と言ったらやっぱ焼き芋だよなっ!!」
「お前はホント食いモンのことしか頭にねーのな」
「なんだよー、秋刀魚だって美味いんだぞ!?」
「あーーハイハイ」
『あとは梨とか葡萄とか』
「そっ!!秋は美味いもんたくさんあるよね!」
「まさに花より団子ですね悟空は」
「つーか、三蔵サマ遅くね?15時に待ち合わせじゃねえのかよ」
『時間にルーズなのは今に始まった事じゃないよ』
「だからって、この寒空の下30分も待たせるとか何サマよあいつ」

久々に飲みに行こうって。
グループトークで発信された悟空の提案の元、予定を合わせて集まったまではいいけれど。
時間になっても現れない三蔵に呆れかえる彼に苦笑する

いつも1便乗りな悟空と、早め行動な八戒。
時間ちょうどに着く私たちと、遅刻魔な三蔵
…ほっとくと悟浄も時間は守りそうもないけどね

「ああほら、そう言ってるうちに来ましたよ」
「三蔵ーっ!!」
「毎回毎回おっせーよ!待ち合わせた意味ねえだろ」
「うるせぇ。お前と違ってコッチは多忙なんだよ」
「こんな遅刻魔に寺の坊主が勤まんのか?」
『さあ?』
「お寺は特に時間に厳しそうですもんね」
「三蔵なら遅刻しても許されんじゃね?」
「どんな寺だっての」
「三蔵が1番偉い寺とかさ!」
「…」
『へえ。どんな手使ったの』
「人聞きの悪ィこと吐かしてんじゃねえよ」
「マジかよ…世も末だな」
「女好きの節操無しよりマシだ」
「いつの話してんだこの生臭坊主ッ」
「友香姉ぇ、悟浄に泣かされたら俺に言ってね。俺、悟浄殴り飛ばしに行くから」
「そうですね。その時は僕もお手伝いします」
『うん。ありがとう』
「…コイツらブッ飛ばしても許されるよな」
『あははっ』
「友香も話にノるなっての!」
『ごめんごめん』
「肩震わせて笑いながら言われても説得力ねーよっ」
『そんな拗ねないで欲しいな』
「そんなことより、こんな寒空の中呼び出しやがって…くだらねえトコ連れてったら殴り飛ばすからな」
「うわ。三蔵のハリセンちょーイテェんだよな」
「いつもいつも、本当にどこから出てくるんですかねぇ…アレ」
「秘密だ」

公演の時計台の下。
子供向けの遊具が溢れるここで、私たちはミスマッチだろうなぁなんて
広がる景色をなんとなく眺めていれば聞こえたくしゃみ一つ
視線を飛ばせばそれはやっぱり三蔵からで
色違いの瞳がきょとんと重なるから、首元に巻いたマフラーで浮かぶ笑みをそっと隠した

「だいたい、今日なんかそれほど寒くもねえだろ」
「日中なんて陽射しもあるから暖かい方ですよ?」
「うるせぇ」
「三蔵は昔っから寒いの苦手だもんなー」
「知ってて呼び出すんじゃねえよチビ猿が」
「俺は猿じゃねーもん!」
「猿っつーと、今年はコイツの年って事か。不吉なことしか起こらなさそうだな」
「黙れエロ河童!」
「だァれが河童だ単細胞!」
「ハイハイ、ハイハイ。友香が風邪引くといけないので、早いとこ移動しちゃいましょう」
「…寒ィ」
『私のマフラー貸してあげようか』
「そんな真っ赤なヤツなんざつけられるか。バカがうつる」
「オイコラ。そりゃどーゆー意味だエセ坊主!」
「でも、三蔵今でもすんげーあったかそうなのにな」
『手袋にニットコートにマフラーと帽子。うん、一番あったかそうな格好だよね』
「あ。因みに今の気温は8℃みたいですよ」
「あったけーじゃん!」
「バカかお前ら。8℃だぞ。人間が活動する気温じゃねえンだよ」

さも当然だとでも言うような口調に思わず苦笑した
まだまだ寒さはこれからが本番だというのに
今からこんなんじゃ、本格的な冬を迎えた時凍死でもするんじゃないだろうか
あ、寒さで眉間の皺が深くなっている

「8℃で機能停止とかどんだけだよ。ジジィだなマジで」
「音速で死ね」
「ぶふぉっ」
「わあ。これまた面白い例えですねえ」
「あっははははは!!音速で死ねとかなんだよソレッ、三蔵マジおもしれーっ」
「暴言に大爆笑してんじゃねーよ猿ッ!!つか、八戒お前もなに感心してんだよ!」
「あはは。いいじゃないですか、面白いですよ?」
「いっぺん殴らせろ、マジで」
『…』
「…あのな、笑い堪えてんの見え見えなんだよお前はっ」
『音速で死ねとか、すんごい速さだよね』
「ほォ…肩震わせながら言うことがソレか」
『面白いこという三蔵が悪い』
「ゼッテー今夜鳴かす」
『私悪くないよね!?』
「うるせー」

歩きだす足。
理不尽な結果に抗議するも、拗ねる彼には届かなくて
…三蔵のせいだからね。どうしてくれる。
公園を抜けて、真っ直ぐに伸びるミチを歩く
木枯らしで肩を震わせる三蔵は呆れ顔で
笑い続ける悟空が遠くに見える看板を指さした

「そんなに寒いなら、肉まん買ってこよっか?」
「お前が食いてぇだけだろうが」
「ほらほら、これから食べに行くんでしょう。それまで我慢ですよ」
『今日一番の被害者な気がする』
「そりゃコッチのセリフだっつーの」
『…どうせならみんなでオールしようよ』
「あっソレ楽しそう!じゃあカラオケ行こうぜ!」
「ふざけんな。夜は寝るモンだ」
「とかなんとか言っても、最終的にマイクを離さないのは誰でしょうねぇ?」
「知らん。」
「だァーー!もう何でもいいから店行くぞ」
『悟浄が拗ねたー』
「いーから、お前はさっさとその冷え切った手ェ寄越せ」
『ん。あったかい』

繋がったぬくもりと、零れる笑顔。
呆れ顔と笑う声が木霊するこの空気は、きっと
秋の寒さも冬の痛みも、吹き飛ばすだけの力を備えているんだ
包み込まれた右手に笑みを落とせば、下ろされた視線が苦笑していた













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