嫦娥の花宴 | ナノ




下界の人は、大変だなと思う。






『きっと天界には住めないね』
「今度は誰の話だ、それ」
『下界に生きる人たちのこと』
「あー…なんでまた」
『花粉症って知ってる、捲簾』
「アレルギーの1つだっけか?」
『そう。特定の植物の花粉にアレルギー反応を起こすんだって』
「なるほど。」
『ここには桜がたくさん咲いてるから、花粉症の人は大変だね』
「へえ。桜の花粉症ってのもあんのか」
『知らない』
「…、ははッ、なんじゃそりゃ」

楽しげな笑い声が木霊した。
私たちがいるのは、桜林と呼ばれる区域
そこの再奥に鎮座する一際大きな桜の樹…の、太く伸びる枝の上だ。
ここからは天帝城を取り囲むように広がる町が一望出来る
天辺に近い枝に佇めば、私よりも下方にだらりと枝に座る捲簾が笑う

脈絡がないのも突拍子もないのも百も承知だ。
だけど仕方ない。ふとそんな事を思ったのだから
私のそんな言動に慣れきっている彼は、特別不思議がることも無くそれを聞いてくれるから
…つくづく、変わり者だと思う。私も含めて。

『桜アレルギーとかじゃなくて良かった』
「だな。そうだったら今頃花粉症とやらで外に出らんねえぞ」
『お散歩も出来ないね』
「花見も無理だろうなあ」
『…花見酒が出来ないのはちょっといたいかも』
「六花の基準はソコなのか」
『捲簾は違うの』
「まさか」
『ほらね』
「六花と美味い酒が飲めなくなるってのは、死活問題だな」
『別に私とじゃなくても飲めると思う』
「俺の中じゃ。酒と美人な女はセットなんだよ」
『…おだてても何も出ないよ』
「それでいいからとりあえずココに戻って来てくれると嬉しい」
『…』

見下ろした、先。
両手を広げて見上げる彼と視線が重なった
目は口ほどにものを言うって良く聞くけど、多分今の彼はそんな感じ。

『…すごく静かなのに、要求の仕方は賑やかだね』
「まあな。離れてんのが違和感なもんで」
『それは同感。』
「あッ、コラッ!!だからって飛び降りる勢いで降りてくんな!」
『ちゃんと枝に着地してるじゃない』
「そーいう問題じゃねーよっ!」
『ほら、ちゃんと戻ってきた』
「…、…お前ね…俺の寿命縮める気か」
『捲簾は心配し過ぎ、だと思う。私だってあの高さから落ちるなんてことしない』
「そりゃそうだろうけどなっ」

彼が座る太い枝に飛び降りて、長く吐き出すため息に座り込む
半眼で視線を飛ばしてくるものだから、笑いたくなる
過保護なのも大変だね。大丈夫だよ、ケガはしないから
彼は殊更そればかりを気にしているのを、知っている

「…とりあえず、もう六花はココから動くの禁止な」
『ココって、捲簾の腕の中のこと』
「そ。勝手に出てったら罰として1ヶ月は俺らと遠征行くの禁止」
『それは…死活問題だね』
「そー思うんなら大人しくしててくれると有り難い」
『ん。大人しくすることにします』
「んで、花には花粉があるっつったか」
『そう』
「ま、俺には縁がない話だな」
『花粉症じゃないもんね』
「そうじゃねえよ。」
『?』
「俺が愛でる”花”にはねえからなぁ」
『…毒花の間違いじゃない、それ』
「いんや。儚いくせに根本はしっかりしてる、綺麗な花だよ」
『……物好きだよね』
「今更だろーが、そんなもん」


優しく髪を撫でる指

押し当てられたぬくもりに…いつも


泣きたくなるほど愛しくなるよ。



目を開いた先、微笑うあなたに抱きついた











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