嫦娥の花宴 | ナノ



変わり者の集団は、性格に比例して発想も変わっている。





「なあ、ゴキブリの話しなんだけどよ」
「なんですか藪から棒に。見てください…六花が物凄く冷めきった目をしてますよ」
『…危うく目の前の報告書の山を投げ出して窓から飛び降りる所だった』
「ほら!捲簾のせいで六花が逃げちゃうじゃないですか!」
「つか、その前にお前はいい加減報告書溜めんのヤメロ」

いつもの場所、いつもの面子、いつもの理由。
白紙との戦いも数時間ともなれば嫌気が差してくるのも分からなくもない。
…だからといって、その話題のチョイスは斜め上過ぎて理解出来ないけど
筆を投げ出した彼が窓の外を眺めながら頬杖つく

机上の中央に鎮座するカエルはそろそろ満腹だと訴えそうで。
3人で吸うから溜まるペースが早いんだ、いつも

「ええと?だからゴキブリがどうしたんですか」
「都合の悪い事だけスルーかよ…」
「細かいこと気にしてるとまたハゲますよ」
「またってなんだよまたって!俺は1度もハゲたことねえっての!」
「六花、どうします?捲簾が丸ハゲにでもなったら」
『原因は確実にストレスだろうね』
「…そこで僕を見つめないでくださいよお!」
『そう思うなら、こんなになるまで報告書溜め込まないで』

山のように聳え立つそれは天蓬が無くしたり忘れたりして溜まったもので。
元帥ともなれば事務作業が多くなるのは必須
良くここまで私たちにバレずに溜め込めたなぁと関心したくなるくらいには、その白紙の量はそれなりで
わざとらしく唇を尖らせる姿に苦笑した

凝り固まった筋肉をほぐそうと私も筆を置けば、同じタイミングで立ち昇った3つの白

『…で。』
「ん?」
『どうしてそんな気味の悪い話の内容に辿りついたの』
「ああ…六花、お前もアレは苦手だよな」
『まあね。クモとアレだけはちょっと無理だと思う』
「大抵の女は部屋ん中で見つけるとキャーキャー叫ぶだろ」
「生理的に無理なんでしょうね、女性には」
「けどよ。さっき此処に来る途中の廊下で雑談してた女官の前を、ソイツが横切ったんだよ」
「まあ外で生活してても可笑しくないですしね」
「で、こっからが問題なワケよ」
「はい?」
「別に気付いてねぇ訳でも無かったってのに、一声も騒がなかったんだよ」
「女官たちがですか?」
「おう」
「それは…なんででしょう?」
『…そこで私を見ないでよ』
「六花は部屋で出ても騒いだりはしねえけど、見事に固まるよな」
「気付くと息まで止まってるからびっくりします」
『身体の機能が停止するんだよね』
「外で見つけてもやっぱ同じようになるか?」

問われた言葉に、考える。
確かに外で絶対に見かけないかと言われたら否と答えるけど、じゃあ同じ反応をするかと言われればそれまた違う気もした。
あの特有の驚きと不快感は自分のテリトリー内でのみ発動されるものなんだと思う

『…そういう訳じゃないと思う』
「現にその女官たちは騒がなかったらしいですからねぇ…女性にもよるんでしょうか」
『なんだろ…上手く言えないけど、自分のテリトリーの中じゃなければ問題ないんじゃない』
「と、言うと?」
『外で…例えば、町中で赤の他人を見てもなんとも思わないでしょ』
「まあな。居て当然くらいにしか思わねえ」
『でも自分の部屋の中に赤の他人が突然出てきたら驚くと思うの』
「ああ…要するに赤の他人に不法侵入された感覚だと」
『…、うん…多分、そんな感じ』
「成程な。」
『よく考えたら虫とはいえ他人の部屋に忍び込むって非常識だよね』
「新聞紙を丸めて叩き潰せばいいんですよ」
「逃げる時あいつらのIQは300超えてんだと」
「1発で仕留められたらカッコイイじゃないですか」
「ごもっとも。」
『この世界の無殺生って意外と曖昧だよね』
「何事もグレーってのは必要なんだよ」
『なるほど。』





そんなくだらない話が広がる、いつもの日常。










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