嫦娥の花宴 | ナノ



本当に、時々

無性に何故か…独りになりたくなる時がある






『―――…葉が、沈む』



空から舞い落ちた紅に染まるそれが、受け入れる事しかしないソコに消えて逝った。




目の前に広がるのは広くも静けさを誇る大きな水面

畔には一つの木船が物言わぬとでも言うかのようにゆらゆらと浮かんでいて

秋特有の涼風が辺り一帯を吹き抜けた


…置手紙は残しておいたんだ

焦りを生んで探し回るなんて事態にはならないだろう。

彼らは、いや。

彼は過保護に拍車がかかっただけでなく、心配性も悪化している気がするから


『…』

胸元まで伸びた黒糸。これも随分と伸びた

切ろうとすると全員で反対されたから、そういえば旅を始めてからは切りそろえる事しかしていないな

顔のラインまで伸びきった前髪が風に揺られてジャマっけだ


スイッチは…ああなんだっけか。


一つの大きな区切りを迎えた私が起こす行動は、いつだって理由なんてないけれど

それでも…それでも、



『…出づる月を待つべし…散る花を追うことなかれ』


ゆっくりと歩みだして、一つ。


不安定に揺れる木船に命を預けてみる


自分の手で漕がなければ前にも後ろにも進めないそれは、


なんだか私自身のようで笑えてしまった


ギィギィと耳慣れないオトだけが響き渡る大きな沖合


伸びる水平線、通り過ぎる風、手を離せば導すら失う―――現状-いま-


先ほど沈んだ紅は水底に抱かれて眠るのだろうか

あの頃に下界を目指して駆け抜けた、私たちのように。

暗闇に抱かれて看る夢は温かいものだといい


『いきはよいよい、かえりはこわい』


櫂を手放すことは、しないでおいた。

泳ぐことが出来ない私では導を失くしてしまえば沈んでいく他ない

揺らいでいた鏡が再び静寂を奏でれば、風が止む

進む先を見つめて、動かした導に視線を落とす

なんとなく…"そこ"に背を向けて座ってみたんだ


『…ああ、これは…なんだか。ふふ…本当に今の私みたいだ』


本来進むべき方向に背を向けたままに動かした導は、

先が分からない故に何処を目指しているのかも分からない

例えば今、この先に大きな岩が聳え立っていたとしたら

ぶつかることにも気づかずに進み続ければこの脆い木船は忽ち大破してしまうだろう

そうなれば命を預けた私はあの紅と同じくこの冷たい水に抱かれて沈むのだ


夢が終わりを告げた、いまは。


独りで生きていくにはこの世界は私に厳しすぎるから


導を置く、止まる木船、波紋する鏡に映るのは…遊戯に嗤う愚かな生き物

還りたくなければ導を捨てなければいいだけの話だ

帰る気があるのならば先を見据えればいいだけの話だ

…どちらも出来ないで立ち止まる木船は、今の私と同じだから


悟浄が聞いたらまた怒りそうだな、なんて


私一人なら横になれる大きさ、そこに横たわって見上げた空


青い空にポツリポツリと浮かぶ白はまるで気ままに浮かんでいるかのように見えるけど、

導である風がなければ留まることしか出来ないのに



『船底に銀花を突き立てたら、沈むよなぁ』



胸元で黙る石に意志を念じれば伝わってくれるだろうか

目を閉じて、音として放つ。





つもりだった、のに





「あっ!!結香姉ぇ居たッ!!」
「アイツ…!まァた辺鄙なトコに居やがって!」
「これはまた随分と…沖合まで逃げ出しましたねぇ」
「今スグ首輪つけてテメェに縛り付けろ」
「なんなら買ってくるか?首輪」
「悟浄の錯月杖の鎖でもいいんじゃね?」
「でも誘き寄せるには餌がありませんよ」
「鉛玉で脅す」
「三蔵それ脅迫だって!」


静寂に落ちる世界が、色を取り戻してしまった。


『―――…置手紙の意味』


少しだけ苦笑を刻んで起こした上体、飛ばした黒の先に映えるのは

4つの色が放つ眩しい光とバラバラなカオ

…三蔵までついてきてたのは正直意外だったけど。


「オイそこの気紛れ美人、泳げないってのになんだってそんなトコに居ンのよ」
『疑似体験?』
「聞こえねえっつーの。もっと腹から声だせ」
『耄碌したんじゃない』
「だァれが年寄だこのじゃじゃ馬!」
『…聞こえてるじゃない』
「うっせぇーよ」
『紅は沈んだのにね』
「…」
『深紅はいつだってそこに在るんだから、不思議ね』

飛んできた深紅の言葉に音を返せば嘆息される。
だから置手紙したじゃない、出かけて来るねって
…なんで一発で居場所がバレたのかは深く考えないことにする
それこそなんか、不毛な気がしたから。

「そこの可愛らしい黒猫さんは、今回はなにが不満なんでしょう?」
『…黒猫が目の前を横切ると不幸になるんだって』
「おや。博識な貴女にしては珍しい虚言を吐きますねぇ」
『…』
「それは"幸せを運ぶ黒猫に逃げられるから幸せを逃がす"が本来の意味ですよ」
『好きね、見えない"真実"を掬い取るの』
「ええ、貴女と同じですよ。なので逃げられる前に捕まえるんです」
『魔女の使い』
「幸福の象徴」
『…無駄に博識なのも考え物だ』

揺らがないオッドアイに今度はこっちが嘆息する。
隠された見えない真実、言葉と風潮に溺れたそれは、どうやら彼には通用しないらしい
なんというか、まぁ
実にひねくれた性格らしい言いようだなと苦笑した。

「なんならお望み通り"逃がして"やろうか」
『思うんだけど、その先に辿り着く場所は限られてると思うんだよね』
「地獄でしかねェな」
『道連れにされる前に一足先に、ってことかな』
「…俺らが道連れにするかお前が道連れにするかの違いだろ」
『それは…責任重大だ』
「その空っぽな脳みそに風穴開けられたくなきゃとっとと人間に戻れ」
『三蔵にしてはいつになく饒舌だね』
「この距離なら外さねえぞ」
『にゃあ』

鋭く突き刺さる紫に射貫かれる。
まるで"此処"に縫いとめるかのように
三蔵の目力って絶対なんか宿ってるよね、鬼かな
言ったら速攻鉛玉飛ばされそうだ。

「…」
『…』
「…」
『…、うん、うん。分かった、ごめんなさい』
「今度はなにを看たの、結香姉ぇ」
『紅の葉っぱが鏡に沈んでいったの』
「どうしてそんなところに居るの」
『木船が私と同じだったから、かな』
「進んでたっぽい方角に背中向けてるのと関係あるね」
『悟空って最近探偵っぽいよね』

色宿さぬ金晴眼の無言には勝てる自信なんかこれっぽっちもない。
思い切り眉間に皺を寄せられれば答えるしかなくて
分かった、って
一つ大きく頷いた姿にゆっくりと瞬いた。

「泳げないヤツいないよな?」
「強いて言えば悟浄ですかねぇ、このメンツだと」
「バカ言うな。人並みに泳げるっつーの」
「オイ。俺を巻き込むな」
「え、三蔵ソレ今さら言う?」
「…チッ」
「辿り着いた途端発砲とかやめてくださいね」
「そんな仏僧俺が刺身にするわ」
「ほざけ」
「うまいですねぇ、物騒との掛け合わせですか」

全員が似たように吐き出した長いため息が透明に溶け込めば、
よく分からなくてまた一つ瞬く。
3人が始めたのは軽めの準備運動。
飛び浮かぶジープに嫌々銃を銜えさせる三蔵は、めっちゃ不機嫌だ
なんだ、どうしたというんだ
私たちとの距離、たぶん50m弱
普通の声量での会話が成立するのは最早相手が彼らだからとしか言えなくて

一番に歩みを進めたのは、やっぱり彼だった

「逃げんなよそこの気紛れ美人」
『!?』
「要は逃げられる前に捕まえてしまえばいいんですよ」
『待って、なんで、』
「首輪だけじゃ足らんな。この際鎖でも縄でも持って来い」
『だから、ちょっと…!』
「俺らが乗っても転覆しねーかなー?」
『止まりなってばっ』
「「「「断る」」」」

珍しくもまぁ、異口同音に唱えちゃったりして。
濡れるのも厭わずにズカズカと進めた歩みの先に広がる鏡に身を浮かべて、気持ちのいいくらいのペースで泳ぎ来る姿に開いた口も塞がりやしない
バシャバシャと響く水の音、近づいてくる4つの色
唖然と見つめることしか出来ない私の淵へ、深紅が一番に手をかけた

「オラ、ちょっとソコ退いとけ」
『…、』
「全員でバランスとって下さいね。じゃないと乗る前に転覆ですよ」
「悟空、お前ソッチ行け」
「ん!じゃあせーのでな!」
「「「せーのっ」」」
『!、もっ…なんなの…っ』

左右に分かれた彼らが掛け声と共に鏡から大きく乗り上げて来る
盛大に揺らいだ体を支えるように船底に両手をつけば、難なく乗り込んできた4つの色が濡れていた。
私だけが乗っていた、沖合に浮かぶ一つの木船には、今。
こうして5人に増えていて
ちょっと待って、この船せいぜい乗れても2〜3人までだと思うんだけどっ

見て見なさい、悟浄と悟空なんて淵に座ってるじゃない
慌てて顔を上げた瞬間、襲った冷たさに再び目を閉じる羽目になった
ポタポタと黒糸を伝う雫と目の前で不機嫌全開で見下ろしてくる深紅
バシャッと奏でた音は彼が私にその手で透明を盛大に飛ばしてきたからで

『っ!』
「なァにが出かけてくるね、だ!こんな危ねぇ場所に行くなんざ聞いてねェぞ」
『…、それなのにどうしていつも辿り着くの』
「バカにすんなっての。お前の行きそうな場所なんか考えなくたって分かンだよ」
『なにその位置情報把握機能。そんなハイテクなものつけた覚えないけど』
「ハッ!こちとら時代の最先端を生きてンだよ」
『…』
「…バカなことしてねえで叫べばいいだろうが」
『…それが出来たら苦労しないよ』

呆れかえった声音に視線を外す。
それが出来たら初めからこんな場所に辿り着いたりなんかしないのに
伸びてきた大きな手がぐしゃしゃとこの髪を撫でまわす
そうですねって言葉と共に、この背を撫でる柔らかい手
うぜぇと吐き捨てた言葉を打ち消すように小突かれた頭でも、痛みなんてなかった
じゃあ手伝ってあげると両手で頬を包まれたから、仕方なく視線を上げた

『…』
「結香姉ぇが独りじゃ出来ないことなら、俺らが手伝ってあげるからさ」
『…甘やかすのが上手くなったね』
「まーね!悟浄の真似」
「チビ猿がナマ言ってんじゃねえよ」
「いいじゃないですか。この際全員で溶けるまで甘やかしてみたら」
「おーおー。じゃあ溶けたら全部俺が飲み干してやるよ」
「あっズリィぞそれ!それじゃあ全部悟浄だけのものになるじゃんか!」
「最初っから友香は俺んだっつーの」
「一人占めは良くないですよ」
『…』
「チッ。タバコがダメになっちまったじゃねえか」
『…、ああ…うん、ごめん…?』

ぐらぐらと、ぷかぷかと。
不安定に揺れる、木舟
うざったそうに濡れた髪を掻き上げる悟浄を見上げていたら、「ん。」と両手を広げてくれたから。
膝立ちのまま大人しくそこへと抱きついてみた
ぽんぽんと、子供をあやすかのような優しい手つきで背を撫でられる
いつの間にか心の奥底に固まる檻を解いていくかのように
知らずの内に溢れ出ていた透明な想いに、悟空がホッとしたように微笑っていて

「スイッチは紅の葉っぱだっつったか」
『…ん』
「沈んだのか」
『水底に消えて逝ったよ』
「舟に乗り込んだのは」
『…先が看えないって嫌ね』
「言っただろ。それが本来の結香なんだってな」
『こんなに不安なものなんだね』
「その不安は生きてりゃ誰だって抱えてくモンだろ」
『そうなのかな』
「そーだろ」
『でも、先が看えずに舟を漕げば…いずれ沈んでしまうよ』
「…」
『巻き込むことだけは、したくないのに』

これからの先が看えていた今までと、看えなくなったこれからの先

ただいまとさよならをキミたちに送ったけれど、私がこんなんじゃ先へも進めやしない

こんなに意気地なしだったっけ、私って

『もっと強かだと思ってたんだけどな…』
「それは思い込みって言うんだよ」
『…?』
「いつだってそうだ。お前は自分がなんとかしなきゃっつう気持ちが一番大きかっただろ」
『それは…私が選んだミチだよ』
「そうだとしてもだ。分からないことがそんなにも怖いってンなら、いい加減俺らを巻き込め」
『…』
「いくらでも巻き込まれてやる。何処にだって一緒にいってやる…だからヘンなスイッチ入れる暇があんなら、声を大にして叫べ」

首の後ろに手を添えられて仰がされて見上げた先
真剣な声と表情で見下ろされたから、ただ黙って彼の言葉を待っていた
叫べと許してくれる存在、それを当たり前のように受け入れてくれる彼ら
力強く握りしめてくれた手は悟空の手
優しく向けられる八戒の瞳と、寄り添うように向けられたままの三蔵の背中
誰一人として拒絶も反対もしていなかったんだ

「不安だって一言俺らに言えば済む話だろ。難しく考えなくたってイイんだよ」

差し伸べられたたくさんの手を掴むことは、悪いことではないよと

ずっと、ずっと

同じ手だけが私に向けられていたんだね

『…いいの、かな』

矛先の向けられない気持ちを、ぶつけてしまうことに対する恐怖と不安

信用していないとかしてるとか、そんなことじゃないんだ

『後悔されても、もう、私にもどうにもできなくなるんだけど』
「ハッ!だァれがするかそんなモン!つか、そんなくだらねぇことするくらいなら初めから強引に手に入れたりしてねーよ」
『…』
「いいからホラ、とっとと叫んじまえ。ぶつけちまえよ」
『…ん』
「何処にいたって何処に行ったって、俺らは変わらねえしお前から離れたりなんかしねえから」


溢れ出た想いに三蔵が振り向いた。
嬉しそうに笑っている悟空と安心したように瞳を細めた八戒を見つめていって、最後にもう一度大好きな色を見上げる
変わらないその想いはいつだって私だけに向けられていたんだ
それに全身全霊で応えても、いいのなら…

どうにもできないこの心を預けてしまってもいいのなら

受け入れてくれる今が在るなら、それに縋らない手はないんだと

彼らは全身で物語っている


『…こわい、よ…これからの先を見守れない自分自身が、不安で仕方ないの』
「それなら一緒に考えていきましょう。結香が生きるその先は、僕らと同じミチですからね」
『もうみんなが危険な目に遭う事態を防いであげられなくなる』
「ダイジョーブだって!今までずっと守ってくれた結香姉ぇを、今度はちゃんと俺らが守るからさ!」
『存在意義をそれで保っていたのかもしれない』
「そんなくだらねぇモンでしかテメェを保ってらんねえのかお前は」
「オイ三蔵」
「黙っとけ。…そんなモンに縋らなくとも、お前が生きてきた証は目の前に在るじゃねえか」
『…』
「お前が今まで自分を殺してまで貫き通した過去があるから、俺らには今が在る。…立場が逆転するだけでそこまで気負う必要なんざねえだろうが」

パチパチと、音がする。
珍しいとぼやきながら手を叩く八戒の言葉に同意するかのように、何度も頷きながら手を叩く悟空が舌打ちした悟浄を見上げていた
紛らわしい言い方すんなって、彼は不満そうだけど

…確かに三蔵がここまで己の気持ちを言葉にするのは珍しいのかもしれない

それ程までに想われていた事実にまた一つ流れ落ちた想いに目を閉じた


「守られるということに慣れていないだけなんですよ、結香はきっと」
『…そう、かな』
「いつだって俺らの事守るのに必死だったんだもんなぁ結香姉ぇは」
『それがずっと当たり前だったんだよ。私がやりたくてやってきたの』
「じゃあこれからはいい加減俺らに守られたって良くね?」
『それは…なんか、むずかゆい』
「女が守られてなにが悪ィのよ」
『柄じゃないよ、そんなの』
「女の特権フル活用したって誰も文句なんざ言わねえだろ」
『…そういうものなの…?』
「…少なくともテメェにはそれが当てはまる」
『三蔵までそんな…』
「いっそお前が何もできない女なら苦労はしねえんだがな」
『それは諦めて欲しいよ』
「だったらお前も諦めろ。…今の俺らが在るのは自分の功績だと認めてやれ」

ふわり、ふわりと、言葉が積もる。

まるで天から降りしきる六花のように、優しく

冷え固まるこの心を包み込んでいくかのように…


ああ…あの日彼がくれたあの名前は、今もまだ生き続けていたんだと


彼らを見ているとそう思えて仕方がない


「うしっ、悟浄!そのまま結香姉ぇ抱えといて!」
「あ?なにする気だよ」
「いーからっ、そんでもってオール持って!」
「何をするつもりですか、悟空?」
「三蔵もコッチ座って!」
「…聞いたところでバカ猿相手じゃ無意味だろ」
「結香姉ぇは悟浄の膝の上な?」
『ん…?』
「よぉーし!んじゃ、悟浄漕いで!」

意気揚々に弾んだキミの声に従って、答えが見えずに各自が訝しむ中で整ったという準備。
言われた通りに櫂を持つ彼の膝に座り込めば、号令がかったと同時に進みだす木船
私と悟浄は進む方向に背を向けたままで、3人は正面を見据えている

ああ…ああ、そうか

向けられたその笑顔が…とても尊いよ


「前方障害物なーし!そのまま真っ直ぐ進んでいいよ!」
「!…ああ、なるほど。そうですね、流れも穏やかなので問題ないでしょう」
「…川と違って落差もねえからな」
「ハッ、上等。」

私と同じだと思っていた、先の分からぬ木船の行方。
それでも、いま。
私の代わりに前を見つめてくれる彼らと、それに従って進みだす悟浄に連れられて

…私はいま、前に進んでいる。

見えるものは過去だけだと思っていたんだ

先の見えない今の私では、もう未来を紡ぐことは出来ないのだと思い込んでいた

それでも、そんな私を導いてくれる光が…こんなにも傍で輝き続けて居る

暗闇を照らし出す灯台のような確かなそれは、違えることはないのだと断言するから


『…これは、確かに…』


守られているなぁって

俯く視線に、笑う気配が木霊する


「結香姉ぇが看えないなら、俺らが代わりになるよ。ちゃんと一緒に連れてくよ」
『…うん』
「だから安心してついてきて!…ずっと一緒に居るんだから」
「進み往くこれからの先は僕らが指し示します。だから、そんなに悩まなくて大丈夫ですからね」
『…う、ん』
「なんの為にあの日俺らにただいまを言ったのか、きちんとその無い頭で考えろ」
『一緒に歩いて行くため…だったんだよ』

重ねる必要はないのだと物語る彼らの行動
漕ぎ続ける彼が落とす言の葉に、檻が壊れた音がしたんだ


「…ほらな。先なんか分かんなくなったって、俺らは変わりゃしねーよ」








導を失くしたと思っていた舟が、再び進み始めたとある日の空の下


あの頃と変わらずに、私は、今を生きる―――…














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