最遊記小説 | ナノ


sakura_rikka21/六花 お題:思い出




夢を看た それはひどく曖昧で

やさしくて あったかくて


―――…でも、なんだかとても 寂しかったんだ







柔らかな青と美味そうな白がふわふわと浮かぶそこから
そっと寄り添うように注ぐ光がある

同じ太陽の光なのに、季節によってその温度を変えるから不思議だ


「…」

伝えたことは、あまりなかったんだ

ガキの頃から時々看ていた夢があること

その夢を看るたび、どうしてか

胸の奥がひどく痛んだこと


三蔵には、バレてるんだろーけどさ。


「部屋に居ねェと思えば、なにやってやがんだ」
「あれ。昼寝してたんじゃねーの?三蔵」
「どっかのバカ猿の声がうるせェんだよ。寝るに寝らんねぇ」
「あ…ごめ、ん」


そっか、そうだった

三蔵にはなんでか、聴こえるんだって

まえに一度だけ…めんどくさそうに、でも

ちょっとだけ優しい声で

そう教えてくれたことがあったっけ。


声にだした事はなかったんだ

でも、あの時みたく…きっと、ずっと

だれかを呼んでいたのかも知れない


「…夢でも看たのか」
「んー…わっかんない」
「あァ?」
「…だって、よく覚えてねえんだもん。いつもいつも、目が覚めると消えてる」
「…」


あったかかった何かとか 嬉しかった何か

懐かしかった何かも、悲しかった何かも


夢のなかでは全部覚えていたハズなのに、知っていたハズなのに。


目が覚めるといつも全部消えてる


覚えて、いられない。


「…だれ、だったのかな」


目映い光のなかで、手を握ってくれた人がいたんだ

顔は見えなかったけど とても とても

大好きな人だった気がした


なにかを、だれかを


呼んでいた人


「…俺が知るか」
「だよなあー。にくまん食った夢とかなら覚えてられんのに…やっぱ良くわっかんねぇや」


覚えていられなかった記憶がある

忘れてしまった、思い出がある


いつか、いつか。


思い出せる日は来るんだろうか


「それでそんな辛気臭ぇツラしてやがんのか」
「えー、別にいつもと変わんねえって。失礼だなー三蔵」
「…」
「それより悟浄と八戒は?出発すんなら戻らないと」
「バカ猿」
「!、おわっ」


伸びてきた手のひらが、めちゃくちゃに髪を撫で回した

見あげたら仏頂面。タバコに火をつけて、一拍おいて

真っ白な煙が吐き出される


「…」


見慣れた光景、ホッとする、仕草

三蔵らしいなって 思えるから。

ため息つきながら 三蔵が俺のすぐ後ろに座る


顔は見えない。けど、いつもの位置。


三蔵らしいやって笑ったら、また呆れられっかな


「…なに笑ってやがんだよ」
「へへ…べっつに、笑ってねーもん」
「フン。気持ち悪ィやつ」
「ヒッデー」
「足りねェ脳みそで余計なことばっか考えてるからだろうが」
「…ん。」
「付き合ってやるよ」
「三蔵?」
「そのツラが消えるまで。…仕方ねェからな」


思い出せない、なにかがあっても


きっと、ずっと。


俺の傍に居てくれる人は



変わらないような気がしたんだ。




「―――…」



綺麗な青を見上げてみる
タバコの香り、背中に触れる馴染みある体温
うん。きっと大丈夫。いつもと同じだ。

いつか、この気持ちの答えを突きつけられたとしても

笑っていられたら、いいなって



今はまだみえない想い出に 思いに

そっと瞳を閉じて息を吸い込んだ。







呼ばれた声に 応えられるように。














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