最遊記小説 | ナノ



気付いて欲しい感情と、反対の想いで

いつもいつも

胸の内が熱くなるんです。







「あれ? 八戒だけ?」
「おはようございます、悟空」
「ん!おはよー八戒!」

時刻は8時過ぎ。
螺旋階段から降りてきた悟空は、キッチンにいる僕を見つけて部屋を見渡す
悟空は仕事が休みでもわりと早起きなんですよね、昔から。飲んだくれて帰って翌日二日酔いな誰かさんにも、是非この習慣を見習って欲しいと常々思う

「三蔵と悟浄は朝早くから出かけてるんです」
「へえ…あの2人が早起きとか、もしかして明日嵐?」
「あはは。かもしれませんねぇ」
「げー、嵐だといろいろ困るんだよなあ」
「朝ごはん食べます?」
「食う!」

なんてことのない、とある平日
仕事が休みな悟空に合わせてスケジュールを調整してたと知ったら、彼は喜んでくれるだろうか
今日という日が特別な日に思えてしまう…この僕の浅ましい感情
疑うことを知らない無垢な子供は、どうしてあの2人が揃って家にいないのかを追求したりはしないから

だから

「うわっ、なんか今日の朝メシめっちゃ豪華じゃね!?」
「悟空の好きな物のオンパレードですよ。ちゃんとデザートにティラミスも用意してあります」
「すげえ…ってか、なんか八戒嬉しそう?」
「あ。バレちゃいます?」
「うん、すっげー分かる」
「あはははは。僕もまだまだ子供だと言うことでしょうか」
「??」
「ちなみに悟空、今日が何の日か分かりますか」
「…ん?」

僕よりも少しだけゴツゴツとした小さな手をとって、一緒に料理が並ぶローテーブルの前へと移動する。僅かに首を傾げてきょとんと丸くなる金晴眼が
不思議そうに見上げてくる
一緒にソファに座ってから僕は少しだけ意地悪をした

「答えられたら、食べてもいいですよ」
「!、マジか!!えっ、なんだろ…んーと…」
「…」
「んーと…今日は水曜日だから…、一般ゴミは火曜と木曜だろ…月曜がプラの日で、えーと…金曜がビンカンの日でー…」
「…。」

必死に指折り数える様子が愛おしくて、今日はゴミの日じゃないよ?と見つめてくる表情が可愛くて。「そうですねぇ」と思わず肩を震わせてしまった
悟空は僕が教えた事をきちんと守ってくれるから
他の2人のように分別もせず適当にゴミ箱に捨てるのではなく、彼は分別に迷ったらちゃんと僕の元まで駆け寄ってきて確認する

常日頃から口を酸っぱくして注意してるあの2人は、何回言っても覚えてはくれないけれど。
誕生日でもないしなぁととても不思議そうに眉を潜めて腕を組む
目の前に広がる好物に視線はクギ付けでも、本当に律儀に僕のちょっとした悪戯に真っ直ぐ応える彼の…なんと素直なことか

「ヒント。今日は何月何日でしょう」
「え…えーと、あ!8月9日!」
「その通りです。今日は、8月9日です」
「…ん? えーと…あれ、なんか俺八戒と約束してたっけ…」
「いいえ。特には」
「…、八戒がめっちゃ嬉しそうなのと関係ある?」
「大ありですねぇきっと」
「んー。八戒が嬉しいこと…8月9日…八戒…はっかい」
「僕だけじゃダメなんですよ。ちゃんともう1人居てくれないと」
「…」

パチパチと瞬きを繰り返した金晴眼。机に向けていた体をぐるんと変えて、座る僕を文字通り真っ直ぐに見つめた悟空。あーとかうーとかひとしきり唸る様子に、すみません。また笑ってしまいました

目には見えない空を悟る者

彼の名付け親は、この輝く命にそんな意味を込めて名付けたのだと聞いた

「え、っと…それってもしかして、おれのこと…?」
「そんなに躊躇うような愛情しか、僕は与えられていませんでしたか…?」
「ちっ違う! だって、なんか…」
「ふふ。そんなに恥ずかしがらないで下さい、僕も照れちゃいます」
「だって…う、うぬぼれてんのかなって」
「そこは是非とも全力で自惚れて欲しいところです」
「うー…」
「それで、意味…分かって貰えました?」
「…八戒ってさ、たまにすんごいロマンチストだよな」
「悟空のその顔が見れるなら僕は充分満足ですからね。では、答えを聞きましょうか」
「は、八戒の8と…俺の9だから」
「ええ正解です。年に1度の大事な僕らの日ですよ。七夕なんかよりも素敵な日でしょう?」
「…ん」

想いが通じ合うようになってから、彼は様々な表情を僕にだけみせてくれるようになった。目の前で耳まで赤く染める姿に微笑んで、僅かに俯いたその額にそっと唇を押し当てる
うひゃっ、なんて。きゅっと目を閉じて首をすくめる姿に…愛しさ以外の何を抱けと言うのでしょう

「僕らの場合記念日はまた別にありますけど、折角こうして8と9が連番なんです。お祝いしないなんて勿体無いじゃないですか」
「…ん、そ…だけど…っ、〜〜〜はっかい!」
「はい」
「ちょっ、」

額から滑るように唇を下ろして、耳、喉元、首筋
両肩を掴んで順を追う
そう…想いも、意味も、刻みつけるように

「〜〜〜っ」
「ちゃんと意味は教えたでしょう?」
「う、ん…!」

自分のズボンを掴んで必死に耐える姿に瞳を細め、そっと手に取った右手。目線の高さまで持ち上げて、恐る恐る開かれる眼に見せ付けるように手首へと唇を押し当てた
ドクドクと脈打つ血流。ああいま彼の思考を支配しているのは自分なのだと

「…はっかい、って…」
「どうしました?」
「なんか…その、す…好きだよな」
「?」
「…色んなトコに、キ、キスするの」
「ええ。だって相手が悟空ですから」
「…っ」

手の甲に敬愛を、優しく食む指先には賞賛を

そして僅かに舌を這わせて辿り着いた掌には、願う想いを乗せて

ふるふると肩を震わせて真っ赤になるまだまだ初心な悟空だから

「本当はもっとやりたいんですけどねぇ。残念ながらまだ朝ですし、今はこのくらいで」
「!、わっ」

ゆっくりと持ち上げた右足
バランスを崩した悟空が慌てて背の後ろに両腕を着いて上体を支える
そんな彼の眼を見つめながら、僕は祈るような想いで爪先にキスを落とす

「はっ、八戒!?そ、んなとこ…!汚いからやめろって…!」
「何言ってるんですか。悟空の躰で汚い所なんかありませんよ」

人間という生き物が何億といるこの世界の中で

ただ1人…僕を選んでくれた人

純真無垢でこの世の汚れを知らない、羞恥で僅かに潤む澄んだ瞳

綺麗なそれを出来れば綺麗なままで愛したい気持ちと、

自分の手で全てを穢してみたくなるこの気持ち

崇めるように、従順に見せかけて

その実…いつもいつも…

この小さな身体を支配したいと願う自分の醜さが暴れ出す


「けれど…そうですね。続きは夜まで待ちましょうか」
「!!」
「楽しみは最後までとっておいた方が、何かと都合もいいですし?」
「な…っ」


ドロッドロになるまで躰の奥まで暴いて、触り尽くしても

この命が僕と一つになることは無くて

成人間近の男にしては妙に甲高い艶声が…乱れる呼吸の最中

名前を呼んでくれる度に背筋を駆け上がる言い様のない背徳感

僕の存在なしでは生きられない躰にしたいと思った


「…」
「…、八戒?」


閉じ込めて、縛り付けて

その金晴眼が映すものもその小さな唇が呼ぶ名前も

悟空を取り巻くこの世の全てを


「…なんでもありませんよ」
「…」


僕だけにしたい、僕だけでいいと。

欲望のまま手を伸ばしてしまいたくなる、時がある

けれどもきっと

この太陽のような命には到底似つかわしくないだろう

この世の全てを分け隔てなく照らし出すあの光のように

陰鬱とした森の奥にも似た仄暗い性を持つ、こんな僕ですら…

なんの躊躇いもなく照らしてしまったから。


「俺、八戒のこと好きだよ」
「………、悟空?」
「よいっしょ。八戒はさ、たまにヘンなところで自分のこと押し殺すから」
「…」
「勿体無いじゃん。ぜんぶぜんぶ、八戒なのにさ」

上体を戻す悟空に合わせて仕方なく離した爪先
伸びてきた2つの手のひらが包み込むように頬へと伸ばされた
そして目の前には僅かに眼を細めて笑う、悟空がいる

大丈夫。好き。俺は八戒が好きだから。

初めてその身を預けてくれたあの日
情けなくも気遣うことも出来ず求めてしまた僕を見上げて笑った悟空
…本当に、この子は
自分が言った言葉の意味を理解しているのだろうか

純粋故に素直すぎる想いに思わず苦笑してしまう

「悟空、僕はね…きっとあなたが思っているほど、優しい人間何かじゃありませんよ」
「んー…でも俺、八戒にされてイヤなことってないんだよなぁ」
「…」
「確かにたまぁーにすっごい笑顔浮かべてる時あるけどさ。そーゆー時って絶対あの2人が何かやらかした時だし」
「悟空になんて向けません、あんな顔」
「それと…よ、夜とかは、びっくりするコトとかもあるけど…」
「…けど?」
「でもアレって、八戒なりの好きって気持ちを…その、俺に伝えてくれてるのが分かるから」

当然びっくりするし、恥ずかしいけど。イヤではないのだと
頬を僅かに染めながらも照れくさそうに笑うのだ
まだまだ穢れを知らない無垢な体とその眼の中に、僕だけが映し出されている

本当に…悟空には適いませんね、一生

「ええ。悟空のこと、大好きですから」
「ん…俺も好きだよ…ちゃんと」
「ずっと僕の傍にいてくださいね」
「ちゃんと居るよ!俺だって、ずっと一緒にいたいから」
「大丈夫ですよ、悟空。僕はずっと悟空の傍にいますから」
「…ん!」

無垢で、素直で、真っ直ぐで。

手放すのも離れるのも…もう、御免だと

無意識に浮かんだその想いにそっと目を閉じる





いつかの、どこかで。




泣きじゃくる幼子に、その生命に





そう伝え残した事が…あったような気がした―――…










夢のつづきは そっとだれかに

きっとそう 太陽みたいな、キミに。

















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