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「トシちゃん!」
「ん?…あ、チャイナ」
目的地に向かって歩く土方は自分を呼ぶ声に気づいて振り返ると。
走ってきた小さな少女が土方の胸に飛び込んできた。
「コンニチハ、トシちゃん!」
「ん。こんにちは。元気してたか?」
「うん!」
にっこりと元気いっぱいに微笑む少女は神楽。
いつものチャイナ服に紅いコートを羽織り、ピンクで揃えたマフラー・耳あて・手袋をしてる。これ以上の防寒はないくらいだが、隠しようのない顔はほんのり赤く、鼻の頭など真っ赤だった。
「もう、神楽ちゃん。失礼だよ!すみません、土方さん。大丈夫ですか?」
「よぅ、メガネ。久しぶりだな」
心配そうに土方を見る、眼鏡をかけた少年は新八。
いつもの袴姿に紺色の厚めの羽織を羽織って、こちらも青で揃えたマフラー・耳あて・手袋をしている。ティッシュペーパーを2つ両脇に抱えて、はぁはぁ息を切らしていた。おそらく、いきなり全力疾走し始めた神楽を必死で追いかけたためだろう。
神楽は土方の片腕をとって抱きつきながら、嬉しそうに土方に話しかけてくる。
「トシちゃん、今日うちに来る日アルな?」
「あぁ。今行く途中で…」
「ア、アレ?途中で銀さんに会いませんでした?」
「万事屋?…いや、見てねぇけど…」
きょとん、と首を傾げる土方。それに不思議そうに顔を見合わせる新八と神楽。
「銀ちゃん、トシちゃんを迎えに行くんだ!って朝早く出かけたネ」
「そんなに早く行ったところで迷惑になるからやめてください、って言っても聞かなくて…。仕方ないからほっといたんですけど、土方さん会ってないんですか?」
あの様子だと屯所まで行っちゃう勢いだったのに、と新八も神楽も首を傾げた。
とにかく、寒いからはやく家に帰ろう、と3人は帰路につく。途中で昼食分と夕食分の買出しをしながら。
そう。今日の土方の約束は。
『万事屋で過ごすこと』だった。
土方のご飯食べたい!と万事屋3人衆に強請られて、じゃあ次の非番の日にな、と二つ返事で承諾したのだ。
(…でも、万事屋はどこに行ったんだろう?)
悔しいが銀時は腕がたつ。危ないことに巻き込まれても大丈夫だとは思うが。
それでも、土方は少し心配だった。引っかかるのは自分を迎えに行ったはずなのに、まったく出会わなかったところだ。
(……何も、なけりゃいいんだけど…)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕方ごろ。
土方はひとり万事屋の台所で夕飯を作っていた。神楽と新八はタイムセールに出かけており、万事屋内には土方ひとりのみだ。
結局銀時は昼時にも帰ってこなかった。土方はぐつぐつと煮えるおでんの灰汁をとりながら、あいつはほんとにどこまで自分を迎えに行ったのだろうと眉をひそめる。
そんなときだった。
「…た、ただいま…」
やけに弱弱しい声が聞こえたと思い、コンロの火を止めて土方が台所から出てみると。
「!?よ、万事屋っ!?」
そこには、
いつもの白地に波の模様が入っている着流しを泥だらけにして、へろへろになっている銀時が立っていた。
ところどころ焦げているのか炭の匂いがし、火薬のような匂いも微かにする。
土方は慌てて銀時に近寄る。銀時は土方の姿を確認すると、へらりと笑って。
「土方〜…、俺は、愛を…貫いた…ゾ……」
「…っ!ちょ…!?」
そう言って、土方のほうに倒れこんできた。バランスを崩しつつ、なんとか土方は銀時の背中の着流しを掴んで支えて。
銀時は気を失ったわけではないらしく、土方の肩口に顔をこすりつけ彼の細腰に腕をまわして抱きついた。
土方はおそるおそる声をかける。
「…万事屋?」
「土方、いい匂いする〜。今日なに?おでん?」
「……お前、いったい何やらかしてきたんだよ」
「だーかーら。愛を守るために戦ってきたんだってば」
「???よくわかんねーけど、お前ちょっと血の匂いがする…怪我してんじゃねぇの?」
ちょっと来い、と、土方は銀時を応接室まで腕をひっぱって連れて行き、ソファに座らせた。
見れば切り傷やら火傷やら、小さいながらも銀時の体はキズだらけだった。土方は顔をしかめる。いったい何をしてきたのか、土方には皆目検討もつかないのだ。
とりあえず、こんな泥だらけでは手当てもできないと判断した土方は、沸かしてある風呂に入るよう銀時を促した。
一緒に入ろう、のくだりは聞かなかったことにした。恥ずかしい、なんていう理由ではなく。
(人が心配してんのに、へらへらしやがって…)と、相変わらずの鈍ちん土方だった。
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