モーガン大佐を倒し、海軍に敬礼されながらあの町を出発して。
小船にゆらゆらと揺られながら、ゾロは仰向けになって目を閉じていた。
体はひどく疲れていて、もうすぐにでも眠ってしまいそうな感じだった。
しかし、ゾロは本格的に眠ってしまう前にいろいろあった今日のことを振り返っていた。
意外な展開だ…とゾロは改めて思った。
(まさか、俺が、海賊になるなんてな…)
くいなと約束したのは『世界一の剣豪』だ。
悪名だろうがなんだろうが、『世界一の剣豪』には変わりない。
ただ、もう一つ予想外だったのは。
(仲間…か)
仲間ができたことだった。
自分と同じくらい強くて、そういう意味で信頼できる人間に出会ったのは、こうして海に出てきてからは初めてだった。
そんな人間はいないと思ってたし、いなくてもどうでもよかった。
自分の夢には、そんなものは関係なかったからだ。
と、急に腹が圧迫されて、ゾロは驚いて目を開く。
見れば眼前にはルフィの顔のどアップ。ゾロは再度ぎょっとする。
腹の圧迫は、ルフィがゾロの腹の上に乗っかっているからだった。背中を丸めてゾロの顔を覗き込むルフィ。
にしし!と、ルフィが独特の笑い顔を見せた。
「…てめぇ、何やってんだよ?」
「ゾロ起きてっか確かめてみた」
「…顔近すぎだ。それと重い。降りろ」
「やだよ〜」
「………」
ゾロは溜め息を吐きつつ、結局ルフィの好きにさせることにした。ゾロとしては言って聞かせるのが面倒なだけなのだが、それこそルフィの思う壺だということには全く気付いてない。
ルフィはじっとゾロの目を見つめてくる。居心地の悪いゾロがやっぱりやめさせようと口を開く前に、ルフィはゾロに話しかけた。
「ゾロの目って、金色じゃねぇの?」
「は?」
「すっげー綺麗だったの思い出して、もっかい見ようと思ったんだけどさ。今は緑だな」
緑も綺麗だけどな!と、ルフィは笑った。
ゾロはわけがわからなくて首を傾げる。ルフィも真似して首を傾げたから、むっとしたゾロはルフィを力任せに退かした。転がるルフィ。
「いってーなー、ゾロ」
「お前が人を馬鹿にするからだろ」
「してないぞ?なんか可愛かったから真似しただけだぞ?」
「…斬るぞ」
「なんでだよ〜。なに怒ってんだ?」
「…男の俺の、どこが可愛いんだ…。馬鹿にしてんのか?」
「可愛いのは可愛いんだ!文句あるか!!」
「…」
ルフィは腰に手を当てて、偉そうだ。バックには“どーん”と効果音が入れられてることだろう。
ゾロは大きく溜め息を吐く。なんかもう、この目の前の男とまともに会話しようとすると、ものすごく大変なことに改めて気付いて…。ゾロはとにかく、さっきの話に戻すことにした。
「で?金色ってなんだ?」
「そうだ、金色!」
ルフィは嬉々として話してきた。
「戦ってるとき、ゾロの目、金色だったんだ!」
「あ…」
「あれ、なんでだ?すっげぇ綺麗だったぞ?」
「…なんでだ、って言われても…。んなこと、俺にもわからねぇんだよ…」
ゾロは少しだけ寂しげに笑った。