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サンジはゾロから言葉が返ってきたのが(それが悪口だったとしても)嬉しいのか、へへ…と笑い声が漏れる。


「…あほって、ひでぇの」

「…あほはあほだろ…」

「あ〜はいはい、俺が悪いしあほでしたよ。だからさ……もうちゃんと、ラウンジで飯食ってくれ」



ちょっと堪えた…と独り言のように呟くサンジ。それが冗談でなく本当にサンジにダメージを与えたんだと伝わってくるようなものだったため、ゾロはドキッとした。
サンジは、この船のクルーにバランスのとれた栄養たっぷりの料理を食わせるのが仕事。…確かにゾロはサンジの作る料理をしっかり残さず食べてはいたが、料理を運ぶのも空の皿を持ってくるのもウソップで。ゾロが食べているところをサンジは直接見ていない。それがどうやらサンジの“昔の記憶”を蘇らせてしまったらしい。もちろんサンジがゾロにあの記憶を話すことはないためゾロには与り知らぬところである。しかし、サンジのこの様子はゾロをかなり戸惑わせた。どうしてそんなに堪えることがあったのだろうか?



「…なんで…」


気付けばゾロは疑問を口にしていた。サンジは見えているほうの片眉と、口の端をに〜と持ち上げる。


「ほう…理由を俺に言わせんのか?重いぞ?お前、責任とれんの?」


茶化すように返すサンジに、ゾロはムッと口をへの字に曲げ顔を背ける。


「…なんだそれ。じゃあ聞かねぇ」

「なんだよ聞けよ。それで責任とって、」



俺のこと好きになって





ハッとして、ゾロは背けた顔を再びサンジに向ける。そのサンジは背を向けて格納庫から出ようとしていた。


「なんてな。冗談。同情で思われても意味ねぇし」

「…コック」

「覚悟しとけよ。ぜってぇ落とす」



サンジはそのままゾロを置いて去っていった。「ナミさんを待たせんじゃねぇぞ」と声をかけて。
出る時にちらっと見えた横顔は、少し赤く染まっていた。



「…くそ…」

ゾロはそれ以上に顔を赤くして片方の手で額を押さえる。少しそうしたのち、意を決したように急いで格納庫を出てサンジを追う。
ひどい豪雨のなか、視界もよくない。それでも視界に入った金髪に向かってゾロが声をかける。



「コック!」

「!!」

驚いて振り向いたサンジの襟元をひっつかみ、そのまま。




ゾロは、サンジの唇に咬みついた。




サンジは反応もできずなされるがままで、目を白黒させる。
呆然とするサンジを離して、ゾロは舌打ちをしながらサンジを見据えた。そして、口を開く。





「てめぇばっかり触ってくんのは、気にくわねぇ」

「…、さ、さわるって…」

「…この間はてめぇが俺に触った。今日は俺が触った。…これであいこだ」

「!!?え!?触るって何!?俺、一体ゾロに何したの!?」



サンジのそんな問いかけに。ゾロの、金色の混じった翡翠の瞳が、猫のように細まる。
それをサンジは、スローモーションのように感じながら見つめた。



「教えねー。忘れたてめぇがわりぃ、せいぜい悔しがれ」

仕方ねェからメシはラウンジで食ってやる、と声をかけて。ゾロはサンジの横をすり抜けてナミたちが待つラウンジに向かった。
サンジは呆然としつつ、無意識にゾロに“触られた”唇に指をめぐらす。…まだ感触が残っている。




「…クソ…」

こんなこと仕掛けて、瞳は真っ金金だったし、顔は真っ赤…。


「あんな盛大に照れるならやるなよ…つか、こんなことしといてほんとあの野郎…」

マジで覚悟しろよ、クソマリモ。




ラブハリケーンに更に火が付いた。これからの航海がいろんな意味で楽しみで仕方がない。
サンジは、ともすれば緩みそうになる口元を必死に引き締めて、ゾロの後を追う。




ところで、ラウンジでは待たされまくったナミが盛大にキレていて。
2人はラウンジに入った途端、仲良く拳骨を食らった。…お互い心の中で(悪いのはクソマリモ(クソコック)だし…)と責任をなすりつけていたのだが、まぁ心の中だったので誰もわからず。



各々のさまざまな野望を乗せて、船は一路、偉大なる航路―グランドライン―へ!!





'10.10.16



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