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「…持ってきたぞ…」

「悪いな…」


あれから。ゾロはラウンジでサンジと顔を合わせづらくなってしまい、ここ2日はウソップに頼んで甲板までご飯を持ってきてもらうということを続けていた。ウソップは日に日にしんどそうな様相になっていた。その理由と言うのも。


「…なぁ、ゾロ…。そろそろ…その…ラウンジで食ってくれよ…」

「…」

「……俺、もうサンジのあの目に耐えられねぇ…」

「……」


そう、ゾロの分の料理を持ち出すウソップをサンジが今にも射殺しそうな目で睨んでくるため、ウソップは非常に疲弊していた。睨む割には口を出さず料理を完ぺきに用意するので、持っていくこと自体はサンジは了解しているのだろうが…。そろそろ自分の精神安定のために、ゾロにはラウンジで前のように食事をとってほしいとウソップは願う。


ゾロとてこのままでいいと思っているわけではない。先ほどナミに「ほんといいご身分よね〜」などと嫌味を言われたばかりだったし、ルフィには「何で一緒に食わねぇんだよー」とぶーぶー文句を言われてしまった。こんなにしんどそうなウソップにも申し訳ないという気持ちもある。…が。



「…夕飯も頼む」

「ゾ〜〜〜ロ〜〜〜…」

「…今日のデザートやるから…」


涙をぼろぼろ零して抗議するウソップに、ゾロはポンポンと肩をたたいて頼んだ。…さすがに今回のことに関して、ゾロはサンジを許すとか許さない以前にどういう顔をして会えばいいのかわからない状態だったためもう少し時間が欲しかったのだ。かわいそうに、ウソップは項垂れてトボトボと去っていく。ゾロはちょっとだけ罪悪感を感じた。


************


あの日。
サンジが酔って、ゾロを捕まえて“触った”日。

翌朝目が覚めたサンジは、とりあえず自分の腕の中にいる暖かな存在に目ん玉が飛び出るほど驚いた。慌てふためいて起き上がったところにゾロが遅れて覚醒する。ぼんやりとサンジを見上げる潤んだ翡翠の瞳に、サンジはごくっと生唾を飲みながら身体を更に起こしてラウンジの床にそのまま正座した。寝起きで半分ぼやけた頭のゾロは、それでも不思議そうにサンジをじっと見つめつつゆっくりと身体を起こした。ぱさり、と毛布が落ちてサンジがあの後持ってきてくれたんだな…とだけ認識した。サンジの目線とゾロの目線が同じ高さになって絡む。…ここまではよかったのだ。が、次のサンジの言葉が決定打となった。




「…あー…なんでこうなった…?」




次の瞬間。サンジを襲ったのは、強烈な痛み―ゾロの頭突き―だった。


************


ゾロはただ単に怒っているわけではない。怒りと名付けるには複雑な、なんとも言葉に表しにくい感情が渦巻いていた。一番しっくりくる言葉は。

「ムカつく…」

あんなに自分を好き勝手にしたくせに…などと思ってゾロはハッとする。なんだ今のは。まるで無体にされた女子のような呟きである。
全部クソコックのせいだ…とゾロは顔を真っ赤にしながら親子丼を口の中にかき込み始めた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ローグタウンに着き、ルフィがバギーに殺されそうになったり海軍に追われたり、でも最終的に助かってたった今進水式を終えた。いよいよグランドラインに入る。激しい暴雨の中、リヴァース・マウンテンに船を進める。


「みんな!ちょっと話があるの。作業が終わったらラウンジに集まって!」

ナミの声が響き、各々が作業を進める手を早めた。ルフィもウソップも今回ばかりは真面目な顔でそれぞれの仕事を一生懸命やっている。


ゾロは、格納庫で火薬や弾丸など濡れては困る物を仕舞い、さらに新聞紙とビニールシートでくるんでいた。大方の作業が終わり、ふうっと一息ついてラウンジへ戻ろうと踵を返すと。視線の先…出入り口に人影を見つける。……それが、顔を合わせたくなかった人物そのもので、ゾロは知らず眉間に皺を寄せてしまった。



「…そういう面すんなよ。傷つくだろ」

「…」

「つか、あからさまに避けられてたからもう既に再起不能なくらい凹んでんだけど…」

「…」



逆光で、ゾロからは相手の顔はよく見えない。ただ、軽口なのに声は裏切ってかなり落ち込んだようなものだったため、微妙に心が痛み少しだけ表情から険が取れるゾロ。それが見えたのだろう、少しだけサンジの声色が浮上する。



「…あのよ」

「…」

「俺が覚えてなくて、それにお前が腹を立てて当然だ、って思うんだけど…。…俺もすげぇ…その…」

「…」

「……忘れて残念だった、つーか…。すげぇ悔しいっつーか…」

「…あほか」


無言を貫く予定があまりに恥ずかしいことを言い出したサンジに我慢が出来ず、思わずゾロは反応してしまう。あんな自分の醜態、やっぱり覚えてなくていい…とゾロは先ほどまで思っていたこととはまったく真逆のことを思う始末。



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