A







ふわり、と空気が動く。
サンジは腕の中にゾロの頭を抱えて、そのまま横になった。必然的にゾロはサンジの方に顔を向ける形で横に寝転がる。かなりの近さで見つめられ、ゾロの顔はこれ以上ないくらいに真っ赤になった。サンジの目がまっすぐ見れず、ゾロの目が泳ぐ。その瞳の色は、金色。



「…あ。金色」

「……!!」

「すげぇ…きれー…」


うっとりとゾロの目をじっと見つめるサンジの視線に耐えられなくなり、ゾロは両目をぎゅっと瞑る。途端に残念そうなサンジの声があがった。



「ゾロ、ね、目ェ開けろよ?お前の綺麗な目、見たい」

「い…やだ…」

「なんでだよ、けち」

「…っ、てめぇが、見なきゃいいだろっ…」




つれないゾロの言葉にサンジは頬を膨らませた。そんな意地悪を言うなら…、とサンジはゾロの耳に手を伸ばした。

「ひ…っ!何、して…っ、あ!」

驚いたのはゾロだ。視界が真っ暗な中いきなり自分の耳を触られれば驚いて当たり前だろう。更には。

「…ゾロ…。目、開けて…」

耳元で囁かれれば、ゾクゾクする感覚が止められなかった。




とうとう根負けしてゾロは目を開けた。本人は睨んでいるつもりなのだろうが、水の膜が張った瞳ではちっとも威力がない。現にサンジは頬を綻ばせただけだった。



「触って、いいか?」


脈絡なく問われたことだったが、ゾロにはわかった。もしかしなくても褒美の話だろう。むす、っと口をへの字に曲げてゾロは首を振る。つーか、もう触ってんじゃねぇか、という意味も込めて再度サンジを睨んだ。


「触っていい、よな?」


今度は半ば断定的な問い方だった。それにカチンときたゾロが抗議をしようと口を開きかけたが、不発に終わった。なぜなら。




「触るだけ。それ以上なんもしねぇから。…お願い…ゾロ…」

この言葉とともに。
はむ、っと。
サンジに下唇を食まれたからだ。






「……な?触るだけ、だからさ……」

イイダロ?



ゾロから目をそらさずに、ぺロ…、とサンジは自分の唇を舐める。
ゾロの視線はサンジの口元に集中した。呆然としているゾロから返事はない。サンジの手はゾロの頭に向かい、そろりと若草色の髪の毛を撫でる。もう片方はゾロの背中から腰をやんわりと撫で始めた。ゾロが気付いた頃にはもう遅かった。





「好きだ…ゾロ」




口付けが、柔らかくふってきた。






初めは触れるだけのキス。
次に啄ばむようなキス。
強引なくせに許しを乞うようにゆっくりゆっくり施されるそれは。
ゾロの思考をだんだんに溶かしていく。



「は、っ…」

息をどこでしていいのかわからず、ゾロは首を振ってサンジから逃れ、息を吸い込む。
サンジはそれを追いかけ、苦しげに呼吸するゾロの顎を捉えて更に口付けた。開いてたゾロの口の中にサンジの舌が強引に割入る。そのぬるっとした感触にゾロは総毛だった。舌が絡められ、上顎の裏を擽られ、ちゅく…と水音が鳴る。背中がぞくぞくして、胸がざわつき、音が鳴るたびにビクっと身体が震えた。
それはゾロにとって初めての感覚だった。それが嫌で無意識にサンジから離れようとするゾロの身体にサンジは腕を回す。ゾロもとうとうサンジの肩に手をかけたのだが、すっかり力が抜けていて縋っているようにしか見えなかった。





「は、っ…んんっ!」

「ふ…はぁ…、やべ…きもちい…」

「うぅ…、こ、っく…っ」


やっと一瞬だけサンジが離れて、ゾロは力の入らない腕をなんとか動かしてサンジの肩を押す。あまり距離はとれなかったがこの行動でゾロの思いはサンジに伝わっただろう。サンジは眉をへの字に曲げた。



「もうちょっと触りたいんだけど…」

「!お、終わりだ、バカ!離れろ、エロコック!」

「え〜〜〜〜」

「お・わ・り!!」



(何が触るだけだ、触るってなんだ、触ること以上はなんもしないってどういう意味だっっ!!)




先ほどまでサンジにされていたことを思い出し、ゾロが頭が沸騰しそうだ。サンジ曰く触っている最中、ゾロの身体はゾロの言うことをちっとも聞かず、力が抜けきってしまっていた。今も身体の芯に熱がこもってうまく身体が動かない感じがする。何より目の前の男と顔を合わせてるこの状態に羞恥を覚え、ゾロはギッとサンジを睨む。…前述したようにあまり効果の無い睨みだが、ゾロが知るはずもない。
そんなゾロの状態をまるで知ってるかのように、サンジはゾロから離れず未だぎゅうぎゅうと抱きしめたままだった。




「ゾロってぬくいな…」

「…離れろ…もう眠ぃ…」

「今日は一緒に寝るか?」

「いやだ」

「お前、さっきから拒否ってばっか」


拒否しても拒否しても聴いてくれないのならば意味がない、とゾロは心中溜息を吐く。結局酔っ払いには敵うはずないのだ。くすくす笑いながら自分の額に口付けようとしてくるサンジをなんとか避けて、ゾロはため息交じりでサンジに声をかける。



「…酔っ払い、寝るぞ」

「え?一緒に?」

「……」

「無言は寂しいんですが、ロロノアさん」

「酔っ払いと話してると時間の無駄だ。離せ、俺は寝る」

「俺も寝るって。なぁ、寝よ?」



宥めるように背中を優しくさするサンジにイライラしつつも、その手にだんだんと眠気を誘われてしまっているゾロ。自分の寝汚なさを生まれて初めてゾロはうらめしく思う。うらめしく思いながらも眠気に勝てるわけもなく、ゾロの瞼はゆっくりゆっくり下りてきて、ものの数分で寝息を立て始めた。






「赤ちゃんみてぇ」

普通、今まで自分に不埒なことをしてた男の隣で寝るか?
そんな単純なゾロの行動にずいぶんサンジは助けられてはいるのだが。


(それにしても…唇、きもちよかったなぁ)


そんなことを思い出してへらりと笑いながら、サンジは先ほど拒否された額にチューを遂行する。しばらくゾロの寝顔を見つめていたが、そんなサンジの瞼も次第に下りていった。







翌日。

お約束通り昨日のことを8割方覚えていないサンジが、自分の腕に納まっているゾロに慌てふためいたのは言うまでもない。






'10.6.22

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