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昼の天ぷらうどんはうまかった。
夜のブリ大根もうまかった。副菜のやたらシャキシャキしてる生野菜もうまかった。出汁をしっかりとったけんちん汁もうまかった。
酒の肴のイカの塩辛もうまかった。もはや文句のつけどころはない。
サンジの料理と関係ないところで言えば、ゾロが自ら選んだ米の酒は極上品で。最高にうまかった。



けど。
それと、これとは別だ。
ゾロの頭の冷静な部分はそう言ってた。

…言葉にはならなかったが。




「ゾロ…」

おおよそ男には聞かせないだろう、まるで女を口説くために使うような甘く掠れた男の声がゾロに届く。
ゾロはともすれば情けない顔になりそうなところをぐぐっと我慢して、精一杯目の前の男を睨みつけた。威嚇である。これ以上近づいてみろ、その喉に咬みついてやる!そんな思いだった。


その甲斐あってかお互いの距離はそう近くない。サンジが近づくのを躊躇っているからだ。強いて言えばゾロの左手がサンジにとられているくらい。サンジから距離をとろうとしたゾロの左の腕を、とっさにサンジが捕まえたのだ。



ゾロはサンジに鋭い目を向けたまま、もう一度考える。ゾロなりに考えて、やっぱりそれとこれとは別だ、と改めて思った。



****************



ゾロを困らせる事態になってしまった原因のひとつは、サンジが酔ってしまったことがあげられる。
米の酒はだいぶアルコール度数が高く、それでなくてもゾロほど酒に強くないサンジは酒盛りの序盤の方で酔い始めた。給仕もままならずへろへろなサンジ。それでもゾロはサンジが食事中うろうろと動かずにたまにはゆったりするのはいいんじゃないか、と思う。今は自分と2人だけなのだ、そんなに甲斐甲斐しくしてもらう必要はない、と。


ゾロは隣で酔ってテーブルに突っ伏してしまったサンジの頭に手を伸ばした。サラリ、とサンジの細い金糸はゾロの手を楽しませる。そういえば、最近サンジの髪に触れた。あれはいつだっただろう?などと、ゾロが物思いにふけっていると。



「…前も、こうやってお前、触ってたよなぁ…」

サンジのくぐもった声がゾロの耳に届く。ゾロは、自分の考えてたことと同じことをサンジが口に出したため驚いてサンジの頭から手を離した。サンジの言葉は続く。



「…いつだったか、覚えてんの……?」




俺が、お前に、告った日なんだけど。






ゾロは、言われた言葉を咀嚼するのに時間がかかった。まるで時間が止まったかのように固まるゾロ。ゾロはサンジの頭があがるまでずっとそのままで。サンジがゾロとの距離を縮めようとしたときにゾロはやっと弾かれたように後退した。それを許さず、サンジの手がゾロの腕を捕まえる。




「あんたは自分からは触ってくるくせに、俺から触ろうとすると逃げるんだな」

ほんと、猫みてぇ…。



酒のせいで頬を赤く染めて、目を細めるサンジ。その柔らかい表情に、ゾロの顔にも朱が走る。腕を引き更に距離を詰めてこようとするサンジに対し、ゾロは身体を後ろに退いてなるだけ離れようと試みる。プラス泣く子も黙る睨みつきで。


サンジの眉が下がり、困ったように息が吐かれた。

「さっきは楽しそぉに俺の頭触ってたくせに」

「……別に、楽しくはねェ」

「そうなの〜?俺の髪の毛を指に絡めてくるくるしてたじぇねぇかァ〜」

「………」


そんなことしてたのか…。ほとんど無意識で触っていたからゾロはよく覚えてない。ゾロはますます自分の顔が熱くなるのがわかった。



「ゾロだけ楽しそうでずりぃなぁ…。俺だって飯とか一生懸命作ったのになぁ…」

「あ…」

「ゾロ…。ね、ご褒美、ちょうだい…?」




**************





酔ってる。サンジはとんでもなく酔ってる。

ゾロは真っ赤な顔で懸命にサンジから逃れようとしながら、そう思った。
こんなセリフ、男である自分に囁くなどサンジにはありえない。というか、もうサンジのキャラが違ってきてるように思う。…誰だ、こいつは…。そもそも仕事がコックのくせに飯作って褒美とか…。



膠着状態の中、ぐるぐるとゾロは考える。だから少しだけ、気を抜いていた。






がたん!



椅子が倒れる音と無理やり引き上げられる身体。
はっと気付いた時にはサンジの顔が目前にあって。
反射的に後退しようとするゾロの足にサンジは自分の足を引っ掛けて。






身体に走る痛みに顔を顰めながらもゾロが目を開けば、見えるのはラウンジの天井を背景にしたサンジの顔で。ゾロはようやく自分が床に転がされたことがわかった。


「わり…。頭打ってねぇか?」

心配そうに言うサンジだがこの状態からゾロを起こそうとは思わないようで、ゾロの顔を覆うように両手をついたままだ。この状態に慌てたのはゾロだ。慌てすぎて腕力ならばサンジより自分のほうが上だということが頭から抜け落ち、むしろサンジに触るとまずいのではという考えばかりが頭を占め、はねのけることができない。ゾロは指一本動かすこともできず、じっとそのままになっていた。

自分を威嚇することをやめて呆けたように瞬きを繰り返すゾロに、サンジは柔らかく微笑んで見せた。その表情のままで言葉を紡ぐ。





「ご褒美、くれよ…」




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