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サンジが邪魔者を追い払っている頃、ゾロはラウンジに荷物を置いた後男部屋のソファに寝転がっていた。眠いわけではない。空腹のほうが勝り、まったくもって目が冴えてしまっている。
それでもゾロは眠いということにしたかった。眠ってしまいたかった。



(…くそ…)


浮かぶのは先ほどの自分の失態。
サンジと繋いだ手も離さず、もう片方の手の荷物も降ろさず、サンジの手から梨を口にして。

なんであんなに自然にあんな恥ずかしいことをやってしまったのか。というか、どうしてずっと手を繋いでいたんだ。一体いつから。いつからそれを自分は普通のことのように受け入れた?


最初は、ふざけんな、って思っていたはずだったのに…。



ゾロにはわからないことだらけだ。サンジがわけわからないのはまだいい。他人をすべてわかるはずない、と割り切れるから。けれど、今はもうゾロは自分のこともよくわからない。




こんなわけがわかんないときは寝るに限る。しかし、寝よう寝ようとぎゅっと目を力いっぱい閉じるのに、頭は冴えていく一方だ。そして更に思い出してしまう。…自分はサンジと約束をしたのではなかったか。




『天ぷら、海老とあなご、あと人参と牛蒡と玉ねぎのかき揚げにしような』



「…てんぷらうどん…」

声に出せば、ますます空腹感が増す。今日は昼は天ぷらうどんで、夜はブリ大根とサンジにリクエストしたのはゾロだ。ルフィがいないため肉ではなく、この間からぼんやりと食べたいと思っていた故郷の味を頼めたのだ。

そして更に思い出した。サンジに繋がれた手を気にしなくなったのはリクエストが通った直後だった気がする。



(…飯に釣られたのか、俺は…)

まるでどこぞの船長のようである。そう思って、ゾロは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
まさかのルフィと同レベル。…船長に向かってひどい言い様だが、食い意地が張ってこと食べ物に関しては子どものような彼と同レベルなど、いろいろ無頓着なゾロといえどショックを受けて然るべきといったところだろう。




ゾロは寝るのをやめた。諦めた。むしろ、ここは精神統一で座禅を組もう、と居住まいを正す。

(剣士たるもの、食い物で懐柔されるなんざ言語道断)




ゾロが懐柔されたのは単なる食い物ではないのだが…。
それにゾロが気付くのは、まだ先の話。








「ゾロ〜」

「…話しかけるな。精神統一中だ」

「うどん、のびちまうぞ?」

「………今行く」


まだまだ修行が足りねぇ…とひとりごちるゾロであった。







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