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サンジはゾロの手を掴んで迷いなく歩く。時間帯はお昼時。もちろん例に漏れず、サンジもゾロも空腹になっていた。

「どっかで飯食うか?」

サンジは煙草を吸いつつ、キョロキョロと街を見渡す。レストランのような洒落てる風な店もあれば、定食屋のような男くさい店もあり、いろいろ種類があって選り取りみどりのようだ。おいしそうな匂いも漂ってくる。


これは食欲をそそられるだろう。無意識に腹部に手を置いてしまう。



しかし、声をかけたのにゾロからは返事が返ってこない。
まさか立ったまま寝てんのか、と、サンジが振り返ると。


不思議そうな顔をしたゾロと目が合った。



「?」

その不思議そうな顔が不思議で、サンジは首を傾げる。
ゾロはそんなサンジの様子を見て少し迷ってから、口を開いた。







「…お前、作んねぇの?」


…少し残念そうな声がツボりました。(サンジ談)







「…何、食いたい?」

「ブリ大根…」

「今からか…。それ、夜でもいいか?他は?」

「……おでん?」

「なんで全部時間かかるやつばっかなんだよ」

「んー…、じゃあ、天ぷらうどん。あったけぇやつ」

「うし、わかった。買い物して、船に帰ろうな」

「ん」


さりげに夜も一緒という約束まで取り付けたのだが、ゾロは気付いてない。ルフィがいないため自分の好きなものをリクエストできたことが何気に嬉しかったのか、口元が少し綻んでいる。



(…なんだよ、マジでかわいいんだけど…。今まで俺を避けまくってたくせに)


さっきまで威嚇して手を繋ぐのすらやっとだったのに、今はサンジの隣に並んで歩いているゾロ。2人は手を繋ぎながらゆっくりと街の店を回る。ゾロは時折気になる商品を見つけるとくいくいとサンジの手を引く。…サンジはそれが可愛くて仕方ない。


「なんだよ、あんまりへそくりねぇんだぞ〜」

「…けちけちすんなよ」

口をへの字に曲げて不満を示すものの、そこまで我儘を言わずに品物を棚に戻すゾロ。なんだかこんな風な態度を取られてしまうと、逆に甘やかしてしまいたくなる。サンジは必死に煩悩と戦った。



(ほんと、戦闘が絡んでないと天然というかボケっとしてるというか…)

心中溜息をつくサンジ。このゾロの様子じゃ、なんで今の今までサンジを避けていたのかその理由すら頭から抜け落ちてるのだろう。今ゾロの頭の中を占めているのは、お昼の天ぷらうどんと晩のブリ大根だ、きっと。プラス、酒だろうか?さっきから酒屋のほうをちらちら見てる。
しかし、その料理を作るのはサンジなわけで。さっきは言外にサンジの作った料理を食べたいとねだられたに等しいわけで。
サンジの機嫌だって上昇するに決まっている。



(あー、なんだこれ、ほんとデートみてぇ)

気を抜くとすぐ顔が緩んでしまう。サンジはなるだけ引き締めて、煙草を絶やさなかった。(口に何か銜えているといるとまだマシなようだ)


※※※※※※※※※※※


魚屋で活きのいい大ぶりのエビとあなごとブリとイカを買い、八百屋でごぼうと人参と大根などを買う。
酒屋ではゾロが1回だけ我儘を通し、米の酒を買った。




最後に寄ったのは果物屋。

その頃には2人とも繋いでいない手のほうも荷物で塞がっている状態だった。




「いらっしゃい!」

「なんかおすすめある?」

「今の時期、梨がおいしいよ!大ぶりだが、味はぎゅっとしまってる」

味見するかい?と、人のよさそうなおばさん店員はその場で梨を切った。下手をすればナミの顔ほどあるのでは?と思うくらいの巨大な梨を果物ナイフでするすると剥き、一口サイズにカットしてくれた。


サンジは荷物を一度地に降ろし、梨に楊枝を刺して口に入れた。シャリ、っと音がなり、その瑞々しさに目が細まる。


「うまい。これはなんも加工しないほうがいいな」

「その分長持ちはしないんだけどね。お客さん、船乗り?船には保存できないから、陸での贅沢って思ってぜひ買ってってよ」

サンジは頷きながら、もうひとつ楊枝に梨を刺してゾロに差し出す。「お前も食ってみろ、うめぇぞ」と言いながら。




そう、わかっているはずだった。
ゾロも自分と同じように両の手が塞がっていると。
一方はサンジと手を繋いでいるから。もう一方は買い物袋を持っているから。


でも、どちらかの手を空けて自分で楊枝を持つだろうと、そうサンジは思い込んでいたので。







「…あ、む」

「……へ」

まさか、ゾロがそのままサンジの手にする梨のほうへ口を寄せてくるとは、思いもしなかった。





シャリ…シャリ…
ゾロの白い歯が、梨を咀嚼する。
唇に光る梨の汁を、赤い舌で舐めとって。ゾロの薄い色の唇が少し赤みを増した。
こくん、と喉仏が動いて梨が飲み込まれていく。




「これ、もっと」

くいくいと、ゾロはサンジの手を引っ張った。その目は梨に釘付け。
だが、サンジの目はゾロに釘付けだ。ゾロ、というかゾロの唇に釘付けだ。



「いくつ包もうか?…金髪の兄ちゃん?」

「…?コック?」




「…あ、え?……あ、えっと、…じゃあ、3つで…」


梨の刺さっていない楊枝を持ちながら固まっているサンジを、おばさんもゾロも不思議そうな顔で見る。
これは俺がおかしいのか?ここでびっくりして固まっちまうのは、俺がゾロに邪な想いを抱いているせいなのか??と、サンジは笑って誤魔化しながら頭の中ではぐるぐる考える。


(なんか、…普通は懐かない猛獣を餌付けした気分だわ…)

ゾロの方からサンジにあんな距離まで近づいてきたのも初めてだったし、ましてやサンジの手から直接食べるなど初も初。
しかも、その食べ方…。一瞬、ほんの一瞬だけ梨になりたいとすら思ってしまったサンジだった。至近距離で見てしまったゾロの唇ぺロリの仕草は、しばらく頭から離れないだろう。







「しっかし、あんたたち仲がいいんだねぇ。手ずから食べるなんて。その繋いでる手を離せばよかったのにさぁ。仲いいのはいいことさね、あっはっはっは!」


店員のこのいらぬ一言により、そっから船までは手が離れてしまったのは言うまでもない。








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