ゾロは『コックの作った飯が食いたい』と言ったのだ。『作ってくれ』と頼んできたのだ。
しかもあんな、あんな可愛い仕草でサンジを止めて、不安そうな顔でサンジを見つめて。サンジは、もうゾロが可愛くて仕方ない。
「っ、離せ!なんなんだよ、お前!?」
「だって、お前…。く、クソ可愛いんだもんよ。しょうがねぇだろ!!」
「な、何逆ギレして…。つーか、可愛いってお前…」
ついに頭沸いたか…と、ゾロが気の毒な人を見るような目をした。サンジもさすがにいたたまれなくなってゾロを離した。
「お前、可愛いぞ…。ナミさんが陰で何て言ってるか知ってるか?『ゾロって寝てるとき猫みたいよね』って言って頭撫でてんだぞ。知らなかったろ?」
天気いいと甲板で気持ちよさそうに寝てるもんな、ぜんぜん気付かねぇんだろ、と続けるサンジ。
そんなことを言ってやれば、ゾロの顔はまた赤く染まっていった。
「…そんなの……知らねぇ……」
そんなゾロをサンジはくすっと笑って。更に話す。
「俺が、飯時になるとお前を起こしに行くだろ?そんとき初めは静かに起こしてるんだぜ?そんでも起きねぇから俺は実力行使にでちまうんだよ。…飯を一番うめぇときに食って欲しいのによ」
サンジは思わず本音が出た。ゾロは目を見張る。そんなこと考えたこともなかった、という顔だ。
サンジは苦笑いして、「座ってろ。今なんか作ってやるから」とゾロの肩を叩いた。
「…わりぃ…」
また、小さい小さい声が聞こえた。
シンクに向かおうとしていたサンジは足を止めて、ゾロの方を振り返った。
そこには、今にも泣きそうな、ゾロの顔。
「…ばぁか…。俺は、お前を責めてるんじゃねぇんだよ」
泣くんじゃありません、とおどけたようにサンジは言って、ゾロの頭をそっと撫でた。短いから堅そうに見えるのだが、存外ゾロの髪の毛は猫っ毛でとてもやわらかくサンジの手を楽しませる。
泣いてねぇ…とゾロはもう憮然とした顔をつくっていた。が、サンジの手を跳ね除けることはなかった。ゾロは意外に頭を撫でられることが好きだということは、麦わら海賊団周知の事実。
サンジは殊更優しく笑った。
「ま、これに懲りたら、なるだけ食事時には起きてくるこった。サンジ様が作った美味い飯、食えたはずの飯を食い損ねるんだ。悔しいだろ?」
「…それも、あっけどよ…」
ゾロはちょっと言いよどんで、それでも意を決したように言葉を紡ぐ。翡翠の瞳が、サンジをじっと見つめて。薄いゾロの唇が動いて。
「……お前を、悲しくさせたから………。わりぃ…」
本日、二発目の、爆弾。
「―――もう、もう、……お前って奴は……」
「?コック?熱でもあんのか?顔赤い」
「…っ、な、なんでもねぇよ…。今から飯作るから、座って待ってろ…」
「?お、おぅ…」
サンジはもう、この天然かわいこちゃんに陥落寸前だ。
(そのうち、こいつに愛の言葉とか囁いちゃうんだろうか…)
可愛いこの子に食べさせるためのあったかいトマトリゾットを作りつつ、自分の気持ちを自覚し始めて溜め息をつくサンジなのであった。
END