ゾロの視点








普段は女性にヘラヘラしたりメロメロしたり、まったくもって軟派な男だが。
真剣に料理をしているときの彼の背中は。



ゾロを惹きつけた。





合わない、と思っていた。ゾロは初めサンジを見たとき、自分とは別の次元にいる男だと、そう思った。

彼が仲間になり、それでもゾロはしばらく慣れなかった。頭で仲間だとわかっていても、本能の方はなかなか納得してくれなかったようで、一人警戒心をもってサンジに対していた。



それが変化したのが、ある日の夕食のこと。

寝過ごして食いっぱぐれたゾロを見かねて、サンジがラウンジに無理くりゾロを連行したのだ。



「いいか、クソマリモ!メシを食わねぇといくら鍛錬しても筋肉はつかねぇんだ!!その筋肉でできた脳ミソに叩き込んどけ!」

ゾロはムッとしたものの、食に関してサンジに意見しても勝てるわけがない。
口答えせず黙っているゾロを一瞥して、サンジは「メシ作るからそこでおとなしく待っとけ」とゾロに背を向けた。





包丁がまな板を叩くリズミカルな音。
手際よく動く手。
じゅっ…と焼ける音が聞こえ、漂ういい匂い。
何より、真剣に料理に取り組むその背中。





(…背中はマシだ…)

ゾロの、初めてサンジへの見方がよい方へ転んだ瞬間だった。



それ以来、サンジの背中を見つめるのがゾロの日課になった。
特に料理をしているときのサンジの背中を見るのがお気に入りで。いつの間にか夜に二人で呑むようになってからも、つまみを作り出すサンジの背中をいつも見つめていた。

“マシ”から“イイ”になったのもその頃だった。





だからと言って、4日前の出来事は予想外もいいところだ。








『すきだ』








混乱した。
ゾロの頭の中は珍しく非常に混乱した。



(スキ…、って、……何だ…っ?)

今まで見たこともない真剣な表情で告げられた言葉は、たった三文字、それがわからない。
いや、意味はわかる。そういう意味だ。今更仲間同士で好きも嫌いもないだろう。わざわざ声に出して伝えることでもない。

そんな風にゾロにしては本当に珍しく頭でぐちゃぐちゃ考えてみてもその答えだし、何より獣じみた本能も告げてる。



そういう意味だ、と。





だから、わからなかった。
だから、わけのわからないことを言い出したサンジから逃げた。



これ以上、どうにかなってしまう前に。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



逃げても無駄だ、とゾロもわかっていた。
こんな小さな船だし、いつまでも逃げられるわけがない。
けれどせめて、自分の気持ちに整理がつくまでは、と。



そんなささやかな願いだったのに。








(…バカルフィ…)

しっかりと手を握られて、ゾロはサンジの後ろを歩いていた。人でごった返す町の大通りを、男二人が手を繋いで歩いている。一応「離せ」と抗議してみるものの、「また逃げられると困る」とか「せっかくつかまえたから離したくない」などと言われ、取り合ってもらえない。



ゾロは熱を持ち続ける頬に握られてないほうの手の甲を当てながら、溜め息をつく。サンジの後ろでよかった、と思った。



(…背中、はイイ)

あの澄んだ青い瞳は苦手。
よく回るあの口は苦手。
耳にいつまでも残るあの声は苦手。

(……背中は……)





頭に浮かんだ三文字。
その意味に気付いて激しく首を振りたくるゾロに、びっくりしたサンジが慌てて止めに入る。

「何やってんの、お前?」

「……」(……言えるわけ、ねぇ…)



心配そうに自分を見るサンジにぐっと口を噤みながら、(背中の話だ、背中の話!ていうか、“イイ”ってだけだ!)と心の中で弁解するゾロ。



とにかく、逃げることも出来ず、サンジの背中を睨みつけながらゾロは彼についていくしかなかった。







END



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