「ごちそうさん」
「おう。んじゃ、次薬な」
空になった皿を満足そうに下げて、サンジはゾロに錠剤2つと粉薬1袋を渡そうとする。が、ゾロは受け取ろうとしない。
「…ほら、薬だっつーの」
「飲まなくても、寝てりゃ治るから、いいんだよ」
「は?」
あんまり馬鹿な考えに、サンジはしばし二の句がつけなかった。
ゾロはというと、話は終わりだとばかりにまたベッドに横になろうとするから、サンジは激昂した。
「馬鹿か、てめぇは!んな大怪我寝てるだけで治せるわけねーだろ!!」
「治る」
「なんの根拠があってんなこと言うんだよ!いいから飲めよ!この3つだけだぞ?」
「いらねぇ」
「…!…まさか、てめぇ…」
サンジははっとして、信じられないような顔をして言った。
「…薬が飲めないとか、ガキみてぇなことぬかすんじゃねぇだろうな…」
「……飲みたくないだけだ。ガキとか言うな」
「………いや、同じことだろ………」
ゾロの顔を覗き込めば、ふいっと逸らされる。しかし、その顔は真っ赤に染まっていて。
サンジは再び瞠目した。今度は笑うどころか、呆れた。
(マジかよ!!?こいつ、俺と同じ年だよな?19だよな!?)
寧ろ、時にサンジより年上かと思うくらいに冷静沈着な男なのに。
上半身の筋肉なんて、サンジより遥かについているのに。
猫舌だわ、薬が飲めないわ、…耳まで真っ赤だわ……。
(なんだか…かわいー奴…)
サンジはまたそんなことを思ってしまって、はっとしてぶんぶん首を振った。
怪訝そうにこちらをうかがっているゾロに、早口で捲くしたてる。
「薬を飲んでたほうが治りも早い!さっさと飲め!」
その言葉を聞いて、ゾロの瞳が揺れる。それにドキッとしながら、サンジは更に詰め寄る。
「早く治して、世界一とやらを目指して鍛錬したらいいんじゃねぇの?」
「………飲む」
渋々、ゾロは薬を受け取る。そして困ったようにサンジを上目遣いで見つめて聞いてきた。
「…なぁ、これ、苦いか?」
「お、おおお俺が知るかよ!」
(かわいい!くっそぉ!なんでこの俺が、この男相手にどぎまぎしなきゃなんねーんだよ!!)
サンジにとっては、さっきからゾロをかわいいと思ってしまってる自分が信じられなくて。
沸いてしまった頭を冷静にさせるために、サンジは胸のポケットを探る。ひとこと「煙草吸うぞ!」と声をかけて一本口に銜えた。火をつけ、紫煙を吐き出す。
ゾロは棚のコップを手にして、意を決して錠剤を口に含んで水を飲み込んだ。粉薬も同様に飲み込む。とてつもなく顔を歪めて、水をがばがば飲み込んだ。
「まっじぃ〜…」
「薬だからな」
「…煙い…」
「ほんっと、お前、お子様だな」
「……酒が飲めるからガキじゃねぇ。酒くれ」
「〜〜〜、あのなぁ…」
サンジはあんまりゾロの言い方が子どもっぽくて、がくっと脱力した。
そしてサンジは…なんだかもう、この男に“かわいい”という表現を使うのは間違っちゃいないんじゃないかと思ってきた。…感覚が麻痺してきたとも言える。
サンジは携帯灰皿に煙草を捨て入れて、溜め息を吐きながら言う。
「大怪我人に酒なんてやれるか。…今日くらい我慢しやがれ」
「…チッ」
拗ねたように舌打ちをして、背を向けるゾロ。
サンジは困ったように頭をかいて、そんなゾロの背中を見つめる。
そして、ふと。
あの、衝撃的だった光景がサンジの脳裏に甦った。
「…死んでもいいと、思ったのか?」
サンジの質問の意味がわからなくて、ゾロはサンジのほうへ顔を向けた。
「は?何が?」
「あん時。鷹の目の男とやったときだよ」