※パラレル。似非マフィアもの。ゾロを拾ったシャンクスと拾われたゾロ。
最近、猫を拾ったんだ。
ここ数日、どんなに部下がヘマしても、不景気で集金が滞ってても、この組のドンであるシャンクスの機嫌が損なわれることはなかった。だから何かイイコトがあったのだろう、と。よっぽどアッチの相性がいい女でもみつけたのだろう、と思っていたベンだったが。
ようやく口を割ったシャンクスの口から出てきたのは、拍子抜けするような内容だった。
「…猫?」
「そ。猫」
話しながらその猫のことを思い出しているのか、今にも鼻歌を歌い出しそうなほど表情が緩むシャンクス。ベンはそんな締まりのないシャンクスのにやけ顔を見ながら、今の顔ではとても組のドンだと誰も思う者はいないだろうな…と呆れる。しかし、うちのドンはそんなに動物好きだっただろうか、と考えているとふとシャンクスと目が合う。…その目を見て、あぁ、と合点がいった。
「ネコ、のほうか…」
シャンクスの目は、欲情を纏った雄の目だった。
「素性は、問題ねぇんだろうな?」
側近である自分にすら黙っていたのだ、おそらくシャンクスの塒のひとつに色(いろ)がいるなどと誰も知らなかっただろう。そんなベンの心配をシャンクスは鼻で笑う。
「問題があっても関係ないね。あれは極上の猫だ。なんかあってもお釣りがくる」
「…珍しいな、お頭がそんなに…」
「入れ込んでるのかが、か?」
今日は驚くことばかりである。ベンは細い目を大きく見開いたままだ。そんなベンの様子にシャンクスはにやりと笑って見せる。
「今度見せてやるよ。可愛くて可哀想な、俺のゾロを」
その物騒な笑みに、ベンはまだ会ったこともない“ゾロ”という猫に同情の思いがわくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ガチャ…
「ゾロ―、ただいま〜」
時刻は深夜。深夜にも関わらず、シャンクスが開けた部屋は真っ暗だった。そのゾロという者が寝てしまっているからか…、否、違う。
ゾロが、“明かりをつけられないから”である。
返事のないことなど気にすることもなく、シャンクスは玄関から明かりをつけて寝室へ向かう。寝室に着き部屋の明かりをつけると、かなり広々とした空間がシャンクスを迎えた。…そして寝室に似つかわしくない、鉄の匂い。
「…ゾロ、また嫌な夢でも見たのか?」
部屋に大きく陣取るキングサイズのベッドの横には、やはり寝室に似つかわしくない、大きな鉄格子の檻があった。
その中の隅でうずくまっていた塊は、シャンクスの呼びかけにハッとしたように顔をあげて、シャンクスのほうを振り向く。昨日買い与えたばかりの虎の毛皮には所々に血が飛び散り、床にも血が舞っている。何より、その塊―青年のむき出しの皮膚にも血が散っている。肩の引っかき傷は真新しいのか血が滲んでいた。
青年は、翡翠色の瞳を限界まで見開いてシャンクスを見つめていた。初めは怯えの色を滲ませていた青年の瞳だったが、徐々に落ち着きを取り戻していく。そうしてようやくシャンクスに声をかけた。
「…おかえり、シャン」
鉄格子の向こうから伸ばされる青年―ゾロ―の手。ジャラ…と繋がれている手錠の鎖が遠慮なしに音を奏でる。
シャンクスはにっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべて、ゾロの手をとった。…朱に彩られてる手を。
「遅くなってごめんな」
「俺こそ悪い。…また正気を失くしてた」
「いいよ。俺がいないと寂しいんだもんね、ゾロは」
「…ばーか」
数日前より少し細くなった手首をとり、シャンクスはゾロの掌に口付ける。そのまま舌で朱を舐めあげる。指の股から先まで、丹念に舐めて。最後にもう一度掌に口付けた。その間、シャンクスの目線はゾロから離れない。
「おいで、ゾロ」
一緒にお風呂に入ろうな。
とろん、と濡れた翡翠の瞳にシャンクスは柔らかく笑って、鉄格子の錠を開けてゾロを出した。虎の毛皮以外何も身に纏っていないゾロ。シャンクスは毛皮ごとゾロの肩を抱き寄せた。そうするとゾロはひどく安心してシャンクスの胸に顔を擦り寄せて目を閉じた。
シャンクスはもう一度ゾロの手首をとってその掌に口付けながら、その掌の向こうで笑う。
……先ほどまでのゾロに見せていた笑顔ではない、ひどく獰猛な顔で。
「アイシテルヨ、ゾロ」
――…だから、はやくここまで堕ちておいで?――
昏い昏い想いだけれど、それは懇願のキスだからお前の掌に。
6:掌の上に懇願のキス
『正気』はどっち…?うん、わかりづらい…。シャンクスに身も心も依存するようゆっくりゆっくり狂わされてくゾロでした。