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彼はいつも前を向いていた。
そんな彼が、一度だけ、一度だけ自分の前で泣いたことがある。
…これは、幼い頃の俺と…ゾロの話だ。



◆◇◆


その知らせを聞いて、真っ先に浮かんだのはゾロのことだった。
本来ならば違う人―その知らせ内に出てきた人―を浮かべて哀悼の気持ちになるべきなのだろう。けれど、俺はゾロの心配が先で。
走って駆け付けた師範の家でゾロの後ろ姿を見つけて、駆け寄ってそして。


「…ゾロ」

迷いながら声をかけるも、ゾロは俺のほうを振り向かない。
俺はゾロの前にまわって顔を覗き込んで、心臓をぎゅっと掴まれたような衝撃を受けた。




ゾロの目には、一切の感情がなかった。




***



彼女の葬儀は、非常にしめやかに行われた。
まるで現実感のない、夢と思えてしまうような。
…くいなが亡くなったなど、思えないような…穏やかな葬儀だった。



葬儀に参列後、ゾロを探すと彼は海を一望できる丘の上で座っていた。
俺はここでもやっぱり迷いつつ、でも意を決して声をかけた。


「ゾロ」



ピクリ、とゾロの肩が揺れる。
ゆっくりと俺を振り返るゾロ。その表情に、生気は感じられない。
…ただ、この前見た感情の無い目ではないだけ、マシには思えた。



「…サ、ガ…」

掠れた声。まるで、久しぶりに声を出したような。喉にひっかかったような。
けれど、ゾロの目が俺にきちんと向けられていることも加えて、俺を認識してることに安堵した。



俺は、ゾロの目の前にゆっくりと座って、目線を合わせる。
綺麗な緑色の瞳。俺の好きな、ゾロの目。

…それが揺れている。いつもの揺らぎないまっすぐなゾロの目じゃなくて。揺ら揺らと…。



「ゾロ…」

そっと、その頬に手を伸ばす。ゾロは動かなかった。指先が、ゾロの頬に触れた。

その瞬間、




ゾロの目から、つー…と雫が流れ落ちた。






「…くいなの手は、冷たかった……」

「…」

「……あいつ……ほんとに死んだんだ……」

「…」

「…死んだ、んだ………」



確かめるように、何度も呟く。何度も。何度も。
こんなゾロ、初めてだった。いつも俺が見ていたゾロは強くて、揺らがなくて、まっすぐで。
そのゾロが今は消えそうで。消えてしまいそうで。…俺は怖くなって。



気付けば俺は。
ゾロの頭を抱えるようにして、彼を抱きしめていた。




「…っ、ふ、ぅ…!」

声を押し殺して、俺の胸で泣くゾロを。絶対に絶対に離すもんか!と力を込めて抱きしめ続ける。
消えていかないように。…俺の前から消えてしまわないように。繋ぎとめるために抱きしめる。



俺の目からも、あとからあとから涙が流れてきた。
…でも、きっとゾロと理由は違う。うまく、言えないけれど。



(次にゾロが目を開ける時は)

そっと腕の力を抜いて、ゾロの頬を両の手で包む。

(まっすぐに前を向けるように)

こつん、と額を合わせる。ゾロの目は閉じられたままで、口からは嗚咽が漏れて。

(俺の好きな、俺がそうなりたいとあこがれてやまない、)

俺もともすればひゃっくりをあげそうになるのを必死に我慢して。

(…揺らぎのない、瞳であるように…)




そっと、そっと、その瞼の上に口付けを落とした。



…この想いの名前は、まだ憧憬としか呼べないから。
この想いにもっとしっくり合う別の名前をつけることができるまで、どうか消えないで…。


5:瞼の上に憧憬のキス

憧憬はサガだよね。それか、ゾロからミホークだよね。悩んだ挙句、どうしてもゾロがミホークにキスする場面がしゅるめの貧困な脳味噌では考えられず、結局子サガになりました。まだゾロへの気持ちに“憧れ”って名前しかつけられないから、それがなくなっちゃうとサガは困るのです。ゾロをどう思ったらいいのかわかんなくなるから。
ヘタレサガ、好きじゃvv



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