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いつも通り、いつも通りの夜だったはずだ。


他のクルーがそれぞれの寝床に入り、静かな静かな夜。
ラウンジで始まった、サンジとゾロ2人だけの酒盛り。忙しいときや食糧に余裕がないときはできないが、たまにこっそりと開かれるそれは2人とも口には出さないが楽しみにしているわけで。


本日のおやつのとき、トレーニングルームにいるゾロにおやつを運んだサンジは、少しだけ頬を綻ばせながら「今晩、11時にラウンジな」と告げた。それだけでゾロには通じる。その証拠に眉間の皺がとれて表情が和らいで「酒…」とだけ呟いた。おそらくは今夜飲めるであろう酒のことを脳裏に浮かべたのだろう、それを見てサンジは苦笑いする。ゾロのそんな柔らかい表情を見れるのは嬉しい、けれどサンジとしてはそうじゃなくて。


「ゾ〜ロ、俺は?」

「…?」


床に座り込んでおやつのフルーツと生クリームがたっぷり乗ったホットケーキを頬張りながら、ゾロはサンジの問いに首を傾げる。サンジはゾロの横に座りながら銜えていた煙草を携帯灰皿に捨てて、ゆっくり瞬いているゾロの目に映るように顔を近づけた。サンジは「だ〜か〜ら〜」と間延びした声を出して口を尖らせてみせた。


「酒だけじゃなくて、俺と一緒にいれるのも嬉しいダロ?」

「!」

驚いて目を見開くゾロの顔がゆるゆると赤く染まり、サンジの目線を避けるように俯く。あ〜あ、可愛いなぁとサンジの頬は緩みまくる。ニマニマなサンジに気付いたゾロがサンジの肩を小突くも、まぁ何をしてもゾロが可愛く見えてしまうサンジには効くわけもなく。とうとうギュウと正面からサンジに抱きしめられて、ゾロは抵抗もできず小さく悪態をつくしかなかった。




いつも通りだった。
サンジがゾロを構ってからかって、ゾロが盛大に照れながらも抵抗弱くサンジの好きにさせる。
お互いがお互いを想っているというのがわかってから、2人の仲はゆっくりゆっくり進んでいた。
…キスも、触れるだけの軽いものしか交わしてない。


それでも幸せだったから。ゾロはもちろんのこと、ゾロより遥かに色恋関係の経験値が高いサンジも焦って進めようとはしていなかった。




今夜も、静かに酒を飲み交わすゆったりとしたひと時になるであろう。
それは当たり前過ぎて疑うということ自体考えもしないほどのことだったから。
よもやあんなことになるなど、サンジもゾロも思いもよらなかった。



◆◇◆



「あつっ!」

「!」


そんなわけで始まった今夜の酒盛り。
軽くつまみを作って、作った順からテーブルに乗せていたのだが。取り皿を取りにサンジがテーブルを離れたとき、それは起こった。


サンジが振り返って見ればゾロが焼酎の水割りのためにサンジが出した氷を口に含めているところだった。



「スープ、熱かった?」

「おふ…」

夕飯で使ったブイヨンの残りを用いて作ったくず野菜のスープ。猫舌のゾロには熱かったようだ。サンジは失敗したなぁと頬を掻いた。いつもはゾロの分はある程度冷めたものを出すようにしているのだが、今夜は久々の酒盛りでサンジも浮かれていて忘れてしまっていたようだ。

ガリガリと氷を食むゾロの横に座り、サンジはゾロの唇に自分の指を当てた。ゾロは目を臥せた後、サンジのほうへと顔をあげて不思議そうな視線を向ける。


「口の中、見せてみろ」

「別に、平気だ」

「俺が嫌なんだって。な?ゾロ」


そう言われてしまってはゾロに拒む理由はなかった。戸惑いながらも、ゾロは口を開く。サンジはそれを覗きこんで、じっと見る。


「わー、痛そ…ベロ赤くなってるぞ」

「まひはほ…」

「…なに?今、なんて言った?」

「……」


答えが返ってこない。サンジは視線をゾロの口の中からずらせば、口を開けながら恥ずかしげに目元を赤めて伏し目がちになっているゾロが見えて。




どく…


サンジの胸が、鳴った。



「…ゾロ、ちょっと指入れてもいい?」

「は…?」


ゾロが答える前にサンジはその長い人差指をゾロの口の中に入れた。思わず口を閉じそうになってしまったゾロだったが、口の中にあるのがサンジの指だと思い出しとどまった。強引に指を入れられたにも関わらず、拒むどころかきつく目を閉じて健気に応えるゾロに、サンジは震えるほど愛しさを感じた。



「う、はぁ…っ、んっ」

「これがゾロの舌で…こっちが上顎…」

「ん、んう…っ」



ぞく ぞく ぞく


ゾロはと言えば、サンジの指で口の中を弄られるというイレギュラーな状況に翻弄されていた。飲み込みきれない唾液が口の端から零れるのもわかったが、どうしてか、サンジの行為を止めようと思えなかった。それどころか、背中がぞくぞくとこれまでに感じたことのない感覚が駆け巡って力が抜けていく。

シュル…と衣擦れの音がして、サンジの匂いが近くなる。腰になにかが当てられて、サンジの腕だとわかる頃には口の中の指が消えていて抱きしめられていた。ゾロはサンジの肩口に自分の額を押し付けて力は完全に抜けている状態だった。



「…悪い。ちょっと止まんなかった」


ゾロの口元を優しく拭いながら、サンジは眉尻を下げて謝罪の言葉を口にする。サンジからすれば色恋自体が初めてのゾロ相手に暴走してしまったことが申し訳なく情けなく…。けれど、ゾロのあの顔は、サンジ自身も初めて見たけれどまるで…。


「…あ、あのよ。ゾロって…口の中弱い?」

「…弱くねェ」

「そういう意味じゃなくて…あ〜…そのなんだ…。さっきの、気持ちよかった?」

「…」


答えるはずないよなぁ…とサンジも諦めモードだったのだがダメ元で尋ねてみる。口の中を弄られてるときのゾロの表情は艶っぽくてエロくて、まるで感じてるって顔で。そこまで切羽詰まって考えていることではなかったが、ゾロとこれから先色っぽいことをするときの参考までに聞きたいサンジだった。

そんな風にうだうだ考えるサンジをそっちのけにして、ゾロはサンジの言葉を頭の中でぐるぐるとめぐらしていた。


(気持ちいい…?気持ちよくはねぇよな…ぞくぞくしたし…)


このぞくぞくした感じをなんてサンジに伝えればいいのか、ゾロにはわからなかった。
今心の中で思った事をそのまんまサンジに伝えても通じただろう、また暴走させるきっかけを与えてしまうことは明白だが。まぁそんな裏事情知る由もなく、ゾロはうまく説明できないと判断して口を閉ざした。


だんまりを決め込んでしまったゾロを見て、こりゃだめだ、とサンジは完ぺきに断念した。こうなってしまったゾロの口を割らせるのは無理だ、とこれまでの付き合いの中でサンジは学習している。それでも、先ほどのゾロの表情はもう一回見たかったので。



「ゾロ。キス、しよっか」



 ほら、酒の瓶を置きなさい。
 ついでだから、今夜はちょっと大人のキスしよ。




まずはゆっくり、愛を込めて唇に。

4:唇の上に愛情のキス


最後の更新、というか愛情のちゅーはやっぱサンジでしょ!
ちょっとだけ普段よりえっちぃ感じに仕上げました、いかがざんしょ?
というわけで、ゾロ。

ハッピーバースデーっっ!!



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