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それは、他愛もない話から始まった。


「や、やっぱり、サンジとかって…キ……キキキ…キス、とか…したことあるのか?」

どんな子がタイプか、始まりはそんな話からだったはずだ。
ゾロが見張りで、チョッパーが寝てて。残ったルフィとウソップとサンジが男部屋にて男子特有の猥談(というには可愛すぎるかもしれないが…)に花を咲かせていた。その流れの中で『キス』の話になり、サンジがそれはそれは表現豊かに濃密なキスのやり方を熱弁した直後。ウソップが顔を真っ赤にしてどもりながらしたのが冒頭の質問だった。



「クソ当たり前だろうが、長鼻くん。さっきの話は経験談だっつーの」

「えぇーっ!?け、けけけけ経験談!?」

呆れたように答えるサンジに、ますますテンパるウソップ。2人より年上でかつ女性経験の豊富なサンジは、お子様め…と思いながらも根は面倒見がいい性格なためまるでお兄ちゃんのように相手していた。…ぶっちゃけた話がサンジには非常に物足りない“猥談”なのだ。



新しい煙草に火をつけながらサンジはニヤリと笑う。

「崇めろ。俺をラブハンターと呼べ」

「ラブハンター様!ははーっっ!」


そんなやり取りをしていると、ふといつもうるさいお子様船長が静かなことに気付く。サンジもウソップも不思議に思ってルフィに目を向けると。


何やら眉をハの字にして首を真横に90度曲げ、腕を組んで唸っているルフィの姿があった。



「ど、どうした、ルフィ?」

「はは〜ん、お前、俺の話についていけなかったんだろ?」

“どんな子がタイプか?”という初歩の初歩からついていけてなかったのだ。
キスの話などもっとついていけなかっただろう。下手したらキスそのものの存在も知らなかったのでは?面白そうに笑うサンジと俺よりもお子様がいた!とちょっとだけ嬉しいウソップ。そんな2人に対し、ルフィはへの字に結んでいた口を開く…。




「キスっつーのはキモチワリ―な」





「…ルフィ、いったいてめぇ誰とキスするのを想像した?」

「ん?サンジ」

「オロスぞ、クソバカ野郎!!」



そりゃキモチワリ―に決まってんだろ!!と、一応寝ているチョッパーに気を遣いながら小声でルフィを怒鳴りつけるサンジ。「見ろ!このサブいぼ!!」とサンジは寝巻の袖を捲って腕を見せ、ウソップも想像してしまったのか顔を青白くさせて空笑いをしてる。ルフィはますます首を曲げて、その角度は135度だ。



サンジは米神に指を当てながら、ルフィに言い聞かせるように話す。

「あのなぁ、キスっつーのは自分の好きな子にするもんだ」

「???」

「…いや、なんつーか…この世の中で一番好きで大切な子にするんだよ。その子とキスするのを想像してみろ、キモチワリ―なんて思わねぇはずだ」

「…この世で一番…」


ルフィは首をまっすぐに戻して、目を伏せて少し考えるような仕草をした。やれやれ、ようやっとこれで恐ろしい妄想の対象から外れる…サンジは胸を撫で下ろす。しかし、ルフィのことだ。そういう欲をもったこともないだろう、具体的な人物など浮かばないだろうなぁ…とサンジとウソップは目配せしていた。



「わかったぞ!」


突然、ルフィは夜中に似つかわしくない大声を発したため、慌ててサンジとウソップは「「声がでけぇ!!」」と咎める。それでも非常にいい笑顔でニコニコしてるルフィに、サンジとウソップはまさか…と顔を見合わせた。


「ル・ルフィ?おめぇ、何がわかったって?」

代表してウソップがルフィに尋ねる。ルフィはくるんとウソップに顔を向けて、嬉しそうに笑って。




「俺、ゾロとならキスしてぇぞ!」




とんでもない爆弾発言を投下した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




昨晩。
サンジとウソップは必死になってルフィを止めた。


それは違う!俺たちが言ってるのは恋愛的な意味だ!違わねぇ!俺はゾロが好きなんだ!ゾロの口の中に俺のベロ入れてみてぇ!ぎゃー!やめてー!想像したくない〜〜!!…と、ほぼ平行線のやり取りがあり。

とうとう根負けしたのはサンジたちの方で、げんなりとした顔のサンジが「…お前の気持ちはわかった。が、いきなりベロちゅーじゃいくらなんでもあのクソ剣士も気のど…いや吃驚すんだろ?とりあえず最初はココにしとけ」と初めてのキスの場所を指南した。不満そうにしながらもやっと納得したルフィにようやくこの場はお開きになった。



そして、今日。
寝不足ながらもいつものようにナミとロビンにメロメロしながら給仕に勤しむサンジと、眠くて手元が狂い伸ばした輪ゴムを自分の指に思いっきり当てて悶絶しているウソップと、いつも通りメリーの船首で水平線を眺めているルフィの姿があった。

ルフィはふあ〜っと欠伸をしながら、ちらりと船首近くの甲板に寝転んでぐーぐー寝ているゾロに目を向ける。ゾロの口をじ〜っとルフィは見つめ、昨日のサンジの話を思い返した。




 “…相手が大事なら段階を踏まねぇとな?ほら、よく言うだろうが”



船首から勢いつけて飛び甲板に降り立ち、スタスタとゾロのもとへルフィは向かう。
大の字になって寝転んでいるゾロの傍らに近づいたルフィは、やはり視線を外すことなくゾロの寝顔を見続ける。…そんな常ではないルフィの気配に気付いたのか、いつもはサンジに蹴飛ばされるまで開くことのないゾロの目がゆっくりと開き始めた。そして、こちらをじっと見下ろすルフィを怪訝そうに見て、ゾロは伸びをしつつ上半身を起こしてルフィに声をかける。



「んー、…ど…した?ルフィ?」


ルフィは屈んで、目を擦るゾロの手首をとって目線を合わせた。急に手首を掴まれたゾロは不思議そうに小首を傾げるが、ルフィは変わらず真面目な顔でゾロを見つめて大きく息を吸い込んで、そして。



 “……まずは、”




「“まずはお友達から始めましょ―――っっ!!”」

「………は?」



呆けているゾロの顔を、両手でがっつり包んで。
ルフィはゾロの広い額に、自分の唇を押し付けた。





まだ友情の段階ならば額にキスを。


2:額の上に友情のキス


誰にするか迷って、やっぱ船長で!(笑)最後のルフィのセリフは棒読みです。


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