2−2





「弱い者いじめは感心しねぇなぁ」



突如かけられた低い声は、その入り込んだ路地の奥から聞こえてきた。

「誰?…っていうか、人間じゃないわね…」

「お…」
(おいおいおいおい!まさかここでまた新たなスタンド!?空気読んでくれっっ!!)

土方はもう涙腺が決壊寸前だ。泣いてもこのピンチを凌げるわけではないから泣かないだけで、泣いて助かるなら土方はいつでもスタンバイオッケーである。女への意識も絶やすことなく、後ろの気配を確認しようと恐る恐る目を向ければ。




そこには狐らしき動物がいた。



…狐だと断言できないのには理由がある。
形は狐なのだが、その毛の色が真っ黒で、後ろで蠢いてる尻尾の数が明らかに1本ではなく複数。


(ぜったいこの世の動物じゃねぇし!つーか、まず動物はしゃべんねぇし!あ〜…俺もう死んだかも…)

絶望に打ちひしがれ、涙腺ももはや崩れ始め涙がちょちょぎれそうな土方。その崩壊寸前の土方に狐らしき動物が静かに近寄ってきた。


「ちょっと、動物霊の分際でその極上品食べようっていうの?私の獲物なんだから、退きなさいよ」

女の鋭い咎める声に、狐は人間臭く肩を竦めてみせる。

「まぁそう言うなよ。ちょっとしゃべるくらいいいじゃねぇか」

「変な入れ知恵したらあんたごと食べてやるから。動物霊なんて低俗なものほんとはいらないけど、割り合いいい精気の匂いするから特別に食べてやるわ」

「それは光栄なことで…」

女の高圧的な態度にも怯えることなく、のらりくらりとするその狐らしき動物は、今にもへたり込みそうな土方にそっと近寄り土方の顔に自分の顔を近付けてきた。近寄られると本当に大きな狐だった。狐が座って土方の目線と狐の目線がちょうどぶつかるくらいで、まるでも●●け姫に出てきた山犬ぐらいの大きさだ。背中に乗せてくれるかな…とか考えだした土方は完全に現実逃避していた。



「…俺の目を見ろ、別嬪さん」

「…っ」

完全にびくついて泳いでいた土方の目は、思いのほか柔らかい狐の言葉に促されるように狐の目をじっと見つめ始めた。よく見れば、狐の左目は瞼が閉じられたままで右目しか開いてなかった。土方の両目は狐の右目―金色の目だった―に集中する。すると、頭の中で声が聞こえてきた。驚いて、土方はますます狐の目をじっと見つめた。




“そうだ、今あんたの頭の中に話しかけてるのは目の前の俺だよ。目を逸らすんじゃねぇぞ。声が聞こえなくなるぞ”

“…あ、あの…あんたは…”

“助かりてぇか?”

狐は土方の質問を無視し、一言簡潔に問う。



“もう一度聞く。助かりてぇか?”


助かりたい、と言って本当に助けてくれるのだろうか…?そういった疑問もないわけではなかったが、ここで取る選択肢はひとつしかないように土方は思った。



“助かりたい。まだ死にたくねぇ”



恥も外聞もない、土方の心底強い心の声に狐は満足げに笑う。

“ふん、正直なこった。…なら俺と契約を結べ”

“契約…?って、なんの?”

“説明してる時間はねぇ。安心しろ、俺にもお前にも悪い話じゃねぇ”


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