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Pipipi…

「ん…」

不愉快な電子音を止めるところから、土方の朝は始まる。低血圧の頭を軽く振りながら、土方はベッドからゆっくりと身体を起こした。腕を伸ばして目覚まし時計を手に取り、その時刻を確かめる。…今日は遅刻しなくて済みそうだ。

ローテーブルの上にあるテレビのリモコンを取り、電源を入れる。賑やかなBGMと明るいアナウンサーの声を背中に、土方はのろのろと洗面所に顔を洗いに動き出す。その途中で台所に寄ってトースターに食パンをセットし、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して電気ケトルに入れて電源を入れた。ここまでは順調。土方のいつもの朝である。



土方は眠い目をこすりこすり、顔を洗おうと洗面所兼脱衣所を兼ねている場所へと続くドアを開く。…が、本日はここで平常から逸脱した。




…洗濯機の近くにあったのは、本来ならあってはいけないもの…黒くもやのかかった人影―髪の毛が長く、女性のような背格好の―だった。




土方は表情をまったく変えることなく開きかけたドアを静かに閉じる。
閉じた途端どっと冷や汗が流れてきた。「…お、おおおお落ち着け、落ち着け、俺…。気付いてない…大丈夫、スタンドは気付いてない………」とぶつぶつ呟きながら、土方は震える手でパジャマ代わりのスウェットのズボンのポケットに入っていた紙きれを取り出し、先ほど閉めたばかりのドアに貼り付けた。大きく息を吐いた後、胸の前で手のひらを合わせ合掌のポーズを取り、ゆっくりと目を閉じる。しばらくそうしたのち、「破っ!」と声をあげると先ほどドアに貼っていた紙きれが青白い炎をあげて焼き消えた。土方は目を開いてその様を確認し、もう一度ドアを開ける。




先ほどの人影は、消えていた。




土方はのっそりと洗面台の前に立つと大きく溜息を吐いた。

「…マジで朝は勘弁してくれ…」

テレビから微かに聞こえる7時を告げる明るいテーマ曲に、理不尽だとは思いながらも「うるせぇ…」と八つ当たりをしてしまう土方だった。


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