3−3





猫は高杉を一瞥した後、視線を土方に戻した。そして。



「…やっぱり、匂いはあんたからだ」

ぽそり、と呟いて次の瞬間。





ぼわわん!


そんなマヌケな音とともに猫の周りに煙が舞い上がり、それに吃驚する間もなく土方は何かに飛びつかれて後ろにひっくり返った。

「いてっ!な、なんだ!?」

カーペットは敷いてあるものの背中をぶつけ、慌てて起き上がろうとしても両肩を押さえつけられて叶わなかった。煙が邪魔で自分を押さえつけているのが誰か見えないが、高杉だろう、そう思って土方が抗議しようと口を開いたそのとき。


煙を割って土方の眼前に出てきた顔は見たことのない銀髪で天パーの男だった。



「は、あ!?」

驚き過ぎてそれ以上言葉の出ない土方をよそに、土方を上から押さえつけている男はニヤリと笑った。煙が少しずつ晴れてきて、なんとその男が全裸のようだということもわかってきて土方はますます驚き過ぎて言葉が何も出てこない。



「いい匂い、あんたすごいいい匂いする。男なのに綺麗で、いい匂いで、俺我慢できないわ。ちょっとだけ食わせて?犬に咬まれたもんだと思えば…あ、俺は猫の妖怪だけどね」

「…」

「かじられるのが嫌なら舐めるだけでもいい!ね、許可して?俺、自分のこと助けてくれた人に無理強いしたくない」

(いやいやいや、この状況、どう見ても無理強いじゃないかな!?)



目の前の銀髪男はどうやらあの薄汚れた白猫で間違いなさそうだ。目の色もさっき見た赤みのかかった茶色だし、自分で猫の妖怪と明言してるし。だが、全裸の男に押し倒されてるこの状況はいくらなんでもいただけない。



もちろん、この場には土方と銀髪男以外にも…。

「…てめぇ…十四郎から離れろ…」



高杉という、まるでどこかのヤ○ザのような元神様もいたので。土方は銀髪男にこれ以上のことはされずに済んだ。




ひと悶着ののち、汚れた身体をさっぱりさせてこい、と銀髪男を風呂場へと送り。使用方法がわからないだろうから高杉を監視役として送り。(初めは土方が行こうとしたのだが、高杉から猛抗議を受けた)土方はその間背格好が同じくらいの銀髪男に自分の着替えを出してやり、お茶の用意をした。
風呂からあがり服も着た銀髪男はかなり乱暴な高杉から逃げて、土方を見つけると力いっぱい抱きついてきた。

「とうしろう!しんは俺のことを苛める!とうしろうと風呂に入りたかった!」

「ふざけんな、このクソ猫!俺ですら十四郎と風呂に入ったことねぇのに、猫又の分際で十四郎と風呂に入らせるかよ!」


高杉は銀髪男を鬼の形相で引っぺがして、今度は自分が土方に抱きつく。負けじと銀髪男は高杉とは反対側から土方に抱きついた。



「…」

土方の拳が、平等に高杉と銀髪男の頭にクリーンヒットした。



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