土方が猫をまじまじと見ていると、突然視界が遮られる。温かな感触。土方の目を塞いだのは高杉の手だった。
「何すんだ、し」
「見んな」
「あ?何言って…」
視界を遮られたまま顔の向きを変えられた土方は、自分の目を塞ぐ高杉の手を掴んで引き剥がした。すると、目の前には高杉の顔のドアップ。
「お前は俺だけ見てればいい」
「!!」
殊のほか真剣な眼差しで告げられた言葉。冗談じゃない!と突っぱねたいのにあまりに真摯に響いたその言葉に、土方は何も言えず顔が熱くなり鼓動が激しくなった。金色の目は吸い込まれそうなくらい澄んでいて目が離せない。
「そうだ…俺だけを見てろ、…十四郎」
徐々に近づいてくる高杉の顔。あぁ、キスされる…。土方はなぜか甘んじようとしている自分に戸惑いながら、近付き過ぎて次第にぼやけていく高杉にずっと見つめ続けて。
「んぅ…」
「「!!」」
猫が寝返りを一回うち、むっくりと起き上がった。その瞬間、がばっと高杉から離れる土方。…高杉は悔しげに邪魔をしてくれた猫を睨みつける。
「ね、猫!よかった、意識戻ったか?」
「…」
先ほどまでの少々甘ったるい空気の名残か、まだ顔の赤い土方が起き上がった猫に声をかける。別に返事を期待して問いかけたわけではなかったが、尋ねるような口調になった。猫は土方の声に反応し、土方のほうに目を向けた。…猫の目は少しだけ赤みを帯びた茶色の目だった。
「…足の傷は痛むか?」
「…」
「も、もししゃべれるならしゃべって欲しい。…お前が猫又っていう妖怪でも大丈夫っていうか、隣のこいつで耐性がついてるっつーか…」
「…!」
猫の目が大きく見開かれて土方が指を指した高杉のほうへ視線が向かう。高杉の隻眼は変わらずに猫を睨んだままだったが。