3−1





土方はこの日、決心した通りに早めに帰宅した。それはよかったのだが。



何故か腕には家を出るときにはなかったものを抱えていた。



「…なんだそれは…」

「ん?見たらわかるだろ、猫だよ猫」

土方の腕の中には、ぐったりしている猫がいた。毛は『もとは白かな?』とかろうじて思える程度の薄汚さで、野良猫の極みのような姿だった。土方が続ける。

「草むらでじっとしてんのを拾って来たんだ。怪我してるみたいで近づいても抱き上げてもじっとしてて…。これ、最初に身体を洗った方がいいよな。晋、タオル取ってきてくれ。……晋?」

反応を返さない高杉を不審に思い、土方は猫に落としていた目線を高杉に向けた。そこには顔を伏せて小刻みに震える高杉。どうしたんだ…と土方が見ていると、ばっと顔を急にあげた高杉はキッと猫を睨みつけつつ指で指してこう叫んだ。



「婚姻を結んで1日も経たねぇうちに、しかも俺の目の前で堂々と浮気とはどういうことだっっ、十四郎ぉぉぉおおお!!!」

「………………は?」



やっぱり神様は人間とは違う頭の構造をしてるんだろうか…。土方はぎゃあぎゃあ喚く高杉を黙らせるために持っていたバックを思いっきり投げつけた。





「ねこまた?」

「そうだ。尻尾をよく見てみろ、二股に分かれてるだろうが。その猫が普通の猫じゃねぇ証拠だ」

バックが当たった頬をさすりながら、高杉は浮気と思い込んでしまった要因を話した。土方の拾って来た猫は尻尾が半分から二つに分かれていて、確かに猫本来の尻尾ではなかった。
ひとまず清潔な濡れタオルで猫の体を拭き、傷ついていた左の後ろ脚に手当てを施して、土方は猫をビーズクッションの上にバスタオルを敷いたものの上に寝かせた。猫はまだ眠っている。

「妖怪猫又。聞いたことないか?」

「なんか本で読んだ気も…。だからってなんで浮気になるんだよ?」

「…猫又も人間に姿を変えられるんだよ」

「こいつも人間になんの?…マジで?」


土方は猫を凝視した。大きさは普通の成猫と同じくらいだ。これが人間に?俄かには信じ難いことだ。

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