「バイトに行ってくる」
「俺も行k「来なくていい」
高杉の申し出を、土方は一刀両断した。それはそうだ、土方はバイトをしに行くのに高杉が一緒に来ても邪魔になるだけだ。
高杉はムッと口をへの字に結ぶ。
「十四郎、昨日のことを忘れたわけじゃねぇだろ?また悪霊に狙われたらどうすんだ」
「俺が変な霊に憑かれたのは昨日のも含めてこれまでに3回しかねぇ。そう頻繁に憑かれてたまるかよ」
無用な心配だ、とでも言うように土方は口を尖らせる。土方には霊を払う能力もあるし、これまでだって一人でやってきた。土方と契約を結んでいないと力の弱る高杉とは異なり、土方の場合は高杉の力がどうあっても必要というわけではないのだ。
そんなことを思いながら支度をしていると、ふと高杉が静かなことに気付く。振り向いた土方は高杉の顔を見てぎょっとした。さきほどまでの小憎たらしい顔や少し怒ったような顔ではなくて…今にも泣き出しそうな悲しい顔を高杉は浮かべていた。
「ちょ…、どうしたんだよ?」
高杉の傍に行き、土方は高杉の顔を覗きこんだ。高杉はふい、っと顔を逸らして少しの間じっとしていたが、そろそろと土方の方へ手を伸ばしてきた。その手は、土方の手を握る。
「っ、晋…?」
驚いた土方が高杉を呼んだ。高杉の口がゆっくりと開く。
「…俺は、十四郎がいなくなったらまた一人になる…」
「…!」
「もし十四郎に何かあったら、すぐ飛んで行く。…ちゃんと帰って来い」
「…うん…」
―いなくなったらまた一人―
その高杉の一言は、土方の心に響いた。
…両親を亡くした直後の自分と無意識に重ね合わせたのかもしれない。
今日は寄り道せずに帰ろう。そんな決心をして、高杉を残し土方はアパートを出た。