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「…替えの服がねぇ…」

サンジは空っぽのゾロのロッカーを見つめながらぽつりと呟いた。

なぜサンジがゾロのロッカーを開けているかというと…。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ほんの数分前、ゾロは溜まった洗濯物を洗いすべて干し終えて、そのまま近くの壁に寄りかかりいびきをかいて寝ていた。そこへ円柱型の缶を抱えたルフィが走ってきた。その後ろにはウソップ。どうやらウソップ工場から何かを盗んできたらしい。

「ルフィーーっ!!返せっ!!」

「やだー!俺はこれで遊ぶんだ!」

「そ、それで汚したら俺までナミにどやされるだろーがーっ!」

狙撃手の必死の訴えは船長に届かない。甲板を走り回る二人。しかし、それは唐突に終わりを告げた。

「おわっ!」

「え」

ゾロが片づけ忘れた桶に足をとられたルフィが。

「あ」

「あああぁぁぁぁぁっっ!!??」

手に持ってた缶とともに。




盛大にすっころんだ。

「わりぃ」

「ぎゃああぁぁぁぁ!!買ったばっかりだったのにぃぃぃいいい!!」



一面に広がったピンク。…缶の中身は、ピンク色のペンキだったのである。



被害状況。
・甲板(半径4〜5メートル)
・ゾロの洗濯物全て
・…ゾロ一体
これらのものが真っピンクに染まった。


それを、これまた偶然に昼食の片づけ後甲板で一服していたサンジが一部始終見ていて、ルフィとウソップに平等にアンチ・マナー・キックをくらわせてから慌ててゾロを風呂場へ押し込んだのだ。

ゾロは夢の世界から一気に現実世界に戻されて、しかも全身ペンキまみれのオマケ付きだったため、かなりご立腹だった。不機嫌そうに眉間にシワを寄せながら、しかしサンジの『目を開けるな』という言いつけを守って、腕を引くサンジに素直についていった。

ゾロを風呂場まで誘導後、サンジはバスタオルを脱衣所に置いてからゾロの着替えを取りに男部屋のゾロのロッカーを開けたのだが…。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(…あれで全部だったのか?)

サンジの脳裏に先ほど捨てた、ペンキまみれのかわいそうなゾロの服が浮かぶ。とてもじゃないが、上下ともあんなにペンキがどっぷりとかかってしまったら着れない。しかも、ペンキの色はよりにもよってショッキングピンクだ。…それはそれで面白そうだけど。

(…仕方ねぇ)

サンジは一度、くわえていた煙草を吸って紫煙を吐き出してからとあるロッカーを開けた。


※※※※※※※※※※


「あら、案外そういう格好も似合うんじゃない」

「ふふふ、とっても素敵よ」

「……………ど・う・も」


女性陣に褒められているにもかかわらず、ゾロはムスッと膨れっ面だ。


今のゾロの格好。
全身サンジの服でコーディネートされているのだ。


縦に青のラインの入ったシャツに黒のジャケットを羽織り、こげ茶のジーンズを合わせた服装。ベルトも装飾されていて、バックルが大きく存在感がある。決して、ゾロ単独ならば着ない服だ。



「サンジくん、グッジョブっ!」

「お褒めに預かり、光栄ですぅ」

サンジは複雑に思いつつ、ナミの言葉に顔をデレデレさせた。自分が着るのとゾロが着るのとでは、同じ服でもこうも違うのかと。スマートにセクシーに着こなすサンジに比べ、ゾロはワイルドにエロティックに見える。なんだか、クルーに見せるのが勿体なく思ったサンジだった。



さて、ゾロはというと、眉間にシワを寄せて目を閉じラウンジの椅子に座ったまま微動だにしない。

「ゾロ、機嫌悪いの?まだペンキのこと怒ってるわけ?」

ナミは首を傾げる。ゾロは良くも悪くも単細胞の部類に入るため、あまり根に持ったりしないのに、とナミは疑問に思ったのだ。


サンジは苦笑いしながら、こっそりナミに耳打ちする。

「俺の服がぴったりだったのが気に喰わないみたいなんです」

「は?」

「俺より自分のほうががっちりしてるもんだと思ってたのに、ぴったりだったのが悔しいみたいで…」

「…あー…、なるほど、ね…」



サンジは着痩せするタイプだし、着痩せして見えやすい服を好んで着る傾向もあった。
初め、服を提供すると言ったサンジに対し、ゾロは「(小さくて)着れねぇだろ」と断ってた手前、着れてしまった気まずさも手伝って、ゾロはずっとあの顔のままなのである。



(確かに、初めてバラティエで会ったときはゾロのほうががっちりしてたけどな)

ゾロもあれから比べて数段逞しくなったが、サンジも成長したのだ。

(筋肉の増量率でいったら俺のほうが上だと思うんだよなー)

言うと怒るから言わねーけど、とサンジは頬を緩ませた。





そこに、頭にたんこぶをくっつけ、顔の腫れたルフィとウソップを筆頭に、ぞろぞろとクルーたちが入ってきた。
…ルフィとウソップの傷が誰にやられたものかなど、言わずもがなだろう。

フランキーがコーラを飲みながら愚痴をこぼす。

「ったく、俺の最高傑作にあんな色のペンキをこぼしやがって!板を全部張り替えねぇとならねぇだろ……お?」

「…あんなに一生懸命拭いたのに結局張り替え……あ」

「サンジーーっ!!腹減った、メーーシーーーーっ……おおーっ!」

「ゾロ、なんか違うぞ。サンジのか?それ?」

フランキーに続いて、ウソップ、ルフィ、チョッパーがゾロを見て声を上げた。
ナミはまるで自分がほめられたかのように、得意気に笑う。

「どう?似合うでしょ?」

「うん!似合うぞ、ゾロ」
無邪気なチョッパーににっこり微笑まれてゾロは困ったように眉間を寄せる。

「…だってよ。よかったな、マリモン」
「……るせ…」



フランキーはにやにやしながらゾロに問いかけた。

「で?ぐるぐるコックの服を着た感想は?」

確かに。これまで周りの連中の感想は聞いたものの、肝心のゾロ自身は何も言ってない。
サンジもこれには興味があった。…まぁ、ここまでの反応をみてみると、あまりいい感情を持ってなさそうではあるが…。

ゾロにクルーの注目が集まる。ゾロは依然としてぶすくれた顔で、唸るように話し始めた。



「……落ち着かねー……」

「ま、そーだろーな。これまで真逆のような服を着てたわけだし」

「それもあっけどよ、………






なんか、コックにずっとぴったり抱かれてる気がして、落ち着かねー」









しーん…



「…何だよ、この沈黙…」

わけがわからない、というように小首を傾げる剣士に。
クルーの何名かは思う。



(((天然ってこえぇぇぇーーっ!!!)))



思わず床に膝をつき、顔を手で押さえるサンジ。その手の隙間からは赤いものが流れ…。

「そうだ!サンジ、メシは……アレ?どした?鼻血か?」

「え!?ほんとだ、大丈夫か!?今、冷やしたタオル持ってくる!」

「ふふふ、破壊力抜群ね。あなた限定で」

「………ハイ………」







終われ。



オチなんて知りません!でも、ゾロは天然だと思います。


'09.5.9 ブログ掲載
'10.10.25 サイトUP



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