波乱の幕開け 【近藤編】@



トシの様子がおかしい。


昨日非番だったトシは、今朝のミーティング前に屯所に戻ってきた。別にそれはいつも通りなんだが、…なんだろう…。トシの、俺に対する態度に違和感があるというか…。

なんだかそっけないんだ。いつもなら勤務時間中でも時間があれば局長室に来てくれて、軽く談笑したりお茶したりするのに(書類整理とか作戦会議とかもするぞ、もちろん!)、全然来てくれなくて。それどころか、廊下ですれ違っても声は掛け合うのに目が合わない。


本日何回目かの廊下でのすれ違いのとき、不自然に顔を背けるトシの姿に我慢の限界がきた俺は、トシの腕を掴む。


「!」

「…トシ、俺、何かしたか?」

びくっと肩を揺らすトシを本当は抱きしめて腕の中に閉じ込めてやりたかったけど、ここは隊士たちが行き交う廊下だったからやめる。とにかく、トシが俺を避ける理由が知りたかった。


「…悪い…、急いでっから」

「あ…」

見れば俺が掴んでるのと逆の腕にたくさんの書類を抱えている。思わず「ごめんっ」とトシの腕を離した。トシは少しだけ俺と距離をとって、ほう、っと溜息を洩らす。…それに少しだけ胸が痛んだ。


「近藤さん…」

「!お、おう!」


今日初めてトシから声をかけられた!嬉しくて、俺が勢い込んで返事をすると、トシがゆるゆると顔をあげた。その顔を見て俺の頬が引きつった。

トシ…?
なんだよ…その面……。
今にも泣きそうな…つらそうな…。



トシは、その顔のまま笑う。無理やりに、口の端をあげて。

「話があるんだ、近藤さん」



これは、いい話じゃない。
もちろん、トシが何を話そうとしてるのかなんて検討がつかない。けど、俺は直感でそう思った。
約束した夜の8時に、ずっとならなきゃいいのに…。去っていくトシの後ろ姿を見ながら、そんなくだらないことを願った。



◆◇◆◇◆◇



夜。仕事を終えたトシが、紺の着流し姿で俺の部屋を訪れる。
俺と少し間をあけて、トシが俺の真正面に座る。…これは、トシが俺と冗談抜きの真剣な話し合いをしたいときにする癖だった。


「トシ、どうしたんだ?改まって…」

頭に浮かぶ嫌な予感を吹き飛ばしたくて、俺はわざと明るい調子でトシに話しかける。…でもこの空気を飛ばす効力はなくて、トシの重苦しい表情に変化はない。
それ以上俺も何も言えなくて、沈黙の状態が少し続いた。



ようやく、トシが口を開いて。
俺は、間違っていて欲しかった自分の直感が、間違っていなかったことを思い知らされる。



「…近藤さん、本当のことを言ってくれ」

「…ほ、ほんとうのこと?」

「…ほんとは、親友同士ではキスしたり抱き合ったり、しないんだよな?」

「!」



こんな内容を話されるなんて、こんなの一番よくない、一番よくない展開だ。



「と、トシ?何を…」

うろたえる俺に、トシの表情は曇る。しまった、これの俺の態度じゃ“嘘だ”って白状してるようなもんだ。予想外のことに俺の頭が回らない。なんで?トシ、いきなりなんでそんなこと言い出した?

焦る俺と、今にも泣き出しそうなトシ。


「トシっ、あ、その、なんで急にそんなこと…」

思考がまとまらない俺は、とにかく時間が欲しかった。それに、なんで非番前は俺との接触をなんの抵抗もなく受け入れてたのに、非番明けの今日になってこんなことを言い出したのか、その理由が知りたかった。



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