その沈黙は時間にしたらものの数秒だったと思う。けれど、体感的にはひどく長くて。
沈黙が耐えられなくなった俺は、もう一度銀時に声をかけようと口を開きかけた。
「ぎ「土方」
しかしそれは、銀時の沈鬱とした声に遮られた。さっきとは比べられないような、重く暗い声。俺は、息をのむ。
「…親友は、抱きしめて、キスするんだろ…?」
「お、おぅ…」
「……じゃあ、恋人は?」
「…え?」
恋人?
「…親友とできるなら、俺ともできるよね?
今、恋人ごっこの真っ最中だもんな?…な?とうしろう…」
気付いたら視界いっぱいに銀時の顔があって。
次の瞬間には、唇にやわらかい感触。
…なんだよ、これ…
なんで、俺…、…銀時にキスされてんだ…
ちゅ…とリップ音が鳴って、それが耳に入って、ようやく俺は回路が繋がった如く手を動かす。銀時から離れるためだ。頭で考えるより先に手が動き、銀時の胸を押す。けれど、全然離れなくて。それどころか。
「ん…」
「あ…っ!ふ、んんっ!」
銀時の手が俺の後頭部に、背中にまわされて、また唇が合わさる。今度はさっきより深く。銀時の舌で唇を舐められて、背筋がぞくぞくした。
なんだこれ、なんだこれ…!
身体の震えが止まらない。力が入らない。焦ってるはずなのに頭の奥が痺れてぼーっとする。
こんな自分の状態が初めてで、俺はかなり混乱状態になっていた。
必死に首を振って銀時から逃れる。
「っ、やめろ…!…なんで、こんな…っ!」
少し距離が開いて銀時の顔に焦点が合う。奴の顔を見て、それ以上言葉が出なかった。
眉間に皺を寄せて、眉尻が下がり、赤褐色の目は悲しみを漂わせていた。
なんだよ、その顔…
…なんでお前が泣きそうな面してんだ…?
歪んだ顔のまま、銀時は俺をまた床に押し倒した。
覆いかぶさってきて、俺を上から見下ろす銀時。逆光で表情がよく見えないけど。
ぽた…
俺の頬に、水滴が落ちる。
……奴は、泣いていた。
「…ごめん、ごめん、…土方。でもっ…」
「好きなんだ、土方。俺、お前のこと…っ!」
「なのに…お前、近藤と抱きしめあったりキスしたりするって言うから…」
「恋人が、例え親友とでもそんなことしてたら、俺は許せない…っ!」
万事屋は苦しそうにそう叫ぶと、俺に抱きついた。
何かが、繋がった気がした。
おかしい、と感じたこともあった。違和感を感じたことも。でも気にしないように、見ないように蓋をしていたものだった。
それが、万事屋の悲痛な叫びで一気に弾ける。
近藤さんは、俺に嘘をついていた。
俺は万事屋に抱きつかれたまま。
呆然と煙草で少し黄ばんだ天井を見つめ続けた。
…目尻から一筋、涙が零れたのも気付かずに…。
続
'11.2.10