A



「土方の作った煮豆、おいしいよ?」

「そ、そうか」

「土方にも食べさせてあげるね?はい、あ〜ん」

「え、えぇっ!?」

「はやくー。落ちちゃうよ?あ〜ん」

「……」



なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ………っ!

俺は今万事屋をまるで座椅子がわりにでもするように、万事屋の足の間に座らされていた。後ろからぴったりと抱きしめ、俺の後ろから器用に煮豆を食べる万事屋。
ただでさえ恥ずかしくて火が出そうなのに、なんだこの状況?
あ〜んって、あ〜んって……。なんだそりゃ…っ!


「…食べてよ、土方…」

「んっ、く…」

耳元で話し掛けられ、自然首が竦んだ。だから、俺は耳が…っ、食べる、食べるからっ!


「…た、たべる……」

やっとの思いで煮豆を食べる。…甘ぇ。万事屋用に普段より甘く煮たから、やたら甘く感じた。



「甘いよねぇ。土方の愛を感じるよ」

あ、愛って…。…あぁ、恋人ごっこだっけか。


「好き…大好きだよ、土方………」

ま、またこいつっ、耳元でっ。万事屋は囁きながら強く俺を抱きしめる。台詞に赤面し、耳元で聞こえる低くて甘い声に震え、俺はもう恥ずかしくて目を強く瞑った。



「よ、万事屋…も、いいから…。わかったから…っ、…もう……」

「えー。まだ駄目だよ、土方。恋人ごっこはまだ続くのー」

「もぅ、わかった…!真剣に考えるから…っ!?やっ!?」

「ね。万事屋じゃなくて、名前ちゃんと呼んでよ…」


こいつ…っ!耳舐めやがったっ…!

「ね?呼んで…?十四郎…」

「ふ、ぅ…っ」


耳、弱いってバレたのか?なんでわかっちまうんだよっ!
それに、んな、甘い声で…。…下の名前、初めて呼ばれた…。



「十四郎…お願い…」

「う、ん…」

呼んで、やろうかな……。恋人ごっこ、…だしな?



「ぎ、…銀時……」

なんか、……やたら照れてしまった。こいつの名前なんて、初めて呼んだかも……。



「十四郎…」


「あ、やっ!」

ふと、うなじに何かが触れた。驚いて、変な声が出て、身体がぶれた。



「ごめっ…びっくりした?」

慌てたような奴の声。怒鳴ってやろうと思っていたのに、その声音でその気持ちは一気に収束した。けれど、嫌味のひとつでも言ってやらないと気が済まない。


「…いきなりそういうことするな…」

「うん、ごめんね?…ね、こっち向いてくれる?」

「…ん」

俺は身体ごと、ぎ、銀時の方へ向いた。




……驚いた。
今まで見たこともない顔で銀時が微笑んでる。




もう、なんか顔が見れなくて、俺は俯いた。顔が火傷しそうなくらい熱い。絶対、俺、顔真っ赤だ。恥ずかしすぎる……。


「十四郎、顔見せてよ…。十四郎の顔が見たくてこっち向いてもらったのに、これじゃ意味ないじゃん?」

「…だめだ」

「なんでぇ?」

「……だめだ」

「十四郎…」



くっそ、見せられるか、こんな顔っ!
俺は俯いたままふるふると首を振る。




ふと、
銀時が笑った気がした。





「お前、なんでそんなにかわいいの?」

そう言いながら、俺の額に触れる銀時の手。

「ん…」

そのあと、俺の額に銀時は自分の額に合わせて、……しまった、自然に顔があがってしまった。



「わー、真っ赤。…かわい」

「ばか…かわいいとか言うなよ……」

額はくっついたまんまだ。…近過ぎて顔が良くわかんないが、…こいつも同じなら俺の顔も見えないだろう…。そう思うとちょっと安心した。



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