波乱の幕開け 【土方編】@



「俺、土方のことが好きだ」





俺の上に乗っかって俺を見下ろしてる男は、確かにそう言った。その目にからかいの色は見えない。見たこともない真摯な目で、赤褐色の瞳が俺を真っすぐ射ぬく。


好きって……。今更そんなこと面と向かって言うことか?そりゃ嫌われるより好かれたほうが嬉しいのは確かだ。でも、今更…。



「土方、また勘違いしてない?」

また万事屋の声が上から降ってくる。勘違い?何が?てめぇが俺を、その、好いてるってのはわかったぜ?っていうか、いい加減退いてくれねぇかな。こいつ重い。



「わかった、聞こえたって。お前、俺を嫌っちゃいねぇんだろ?」

そう返してやると、なんか傷つきましたみたいな顔をした。は?なんでだよ?


「やっぱり土方、わかってないじゃん……」

「はあ?何が?つーか、いい加減にどけよ」

「土方……」



なんだこいつ!どけって言ったのに身体倒して俺を抱きしめやがった。離れてほしくて万事屋の背中を叩くがびくともしない。なんで背丈が同じくらいなのに腕力適わねーんだよっ!


「土方、俺の言ってる『好き』は親友のじゃないんだよ?」

「え…」

万事屋の言葉にびっくりして、俺は背中を叩くのをやめた。親友の『好き』じゃない?じゃあ、なんの…?





「俺は土方を恋人にしてぇ……」





こ……
こいびと………
恋人だとぉーーっ!!?





「なっ、何を言ってんだよお前っ!?からかうのもいい加減に……」

「からかってなんかいないって……マジなの。マジで土方と友達以上の関係になりてぇの」

「はあーーっ!?だってお前っ!俺たちは男同士……」

「好き合ってたら性別の壁なんてさしたる問題じゃなくね?」

「えっ!?……そ、そーかもだけど……。」

「じゃあ、俺と付き合ってくれる?土方」

「あ、あ……。って、待てっ!俺はお前のこと…」

「だってこんな風に寝転がってる状態で抱きしめても逃げないもん。俺のこと嫌じゃないんでしょ?」

「嫌……ではないが…」

「じゃあ、好きでしょ?」

「うん…っ…!?っだから、それは突飛すぎるだろっ!」



あぶねっ!危うく言い包められるところだった!
万事屋は甘えるように俺の首筋に顔を擦り付けてる。くっ…、天パがあちこちにあたってこそばゆい…。


「…っ、やめろって!くすぐって……」

「なー、土方、お前すっげぇいい匂いがする。シャンプー何?」

「んっ…、ラ○クス…。じゃなくて、匂いを嗅ぐな!変態っ」

「ひどっ!変態じゃねーもんっ!ただの土方好きだもんっ!」

「……わかったから。離れてくれ」

「……土方、抱き心地よくて、銀さんの手が離したがらないんだ」

「んな言うこときかねぇ手なら俺が切り落としてやるよ?」

「……離すよ……でも、土方逃げない?」

「逃げねぇから……」



やっとのことで万事屋を説得して、漸く上半身を起こす。……カーペットを敷いてあるとはいえその下はフローリングだ、そこに横になってたから身体がいてぇ。
万事屋の方を見ると、何故か俺を見ながら顔を赤くして固まってる。不思議に思って自分の姿を見ると、……。これ以上ないってくらい着流しが乱れまくってる!うわ、太ももまで捲りあがってるじゃねぇかっ!かっこわるっ!
慌てて直すと、今度はやや不機嫌そうに頬を膨らませた万事屋の顔。なんだっつーんだ?



とにかく、もう一回落ち着いて話さねぇと。
好きって何だ?どういうことなのか整理しないと駄目だろ。



「だからぁ、土方のことが好きなんだって」
「親友の『好き』じゃないよ?恋人の『好き』ね?」
「銀さんと結婚して、一緒に暮らしてほしい」



米神がひくついた。

「……お前、もしや朝昼晩の飯目的?」

「なんてこと言うんだっ!人の精一杯の告白をーーっ!!」

「あ、すみません…」



ち、違うのか?だってよぉ……。

「そんなの、信じろって言うほうがムリじゃね?」

「……なんで」


うわっ。表情が一変した。まずい、言い過ぎたか?

「わ、悪い。なんつーか、今までの俺たちの関係からそういうのが想像つかなくて、だな……」

なんで俺がこんな気を遣ってやらないといけないんだ?いろいろ疑問はあるが、きちんと自分の気持ちは伝えとかないと……。



「ふうん。じゃあ、想像ついたら真剣に考えてくれる?」

「え?」


な、なんだ?やたら万事屋の顔が近い。
万事屋はにっこりと俺に微笑んだ。なんか……嫌な予感しかしないんだが……。



嫌な予感は的中。万事屋は思いもよらないことを言い始めた。

「恋人ごっこでもしてみようか?」



…おいおいおいっ!?

「はあ?」

「だから、俺とお前が恋人同士になる感じが想像つかないんでしょ?恋人ごっこしてみたら想像つくかなーと思って」

「ごっこ…って」

「じゃあ、今から開始ね?3・2・1、キュー」

「え?あ?」




……とんでもないことになった……。



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