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「あ、わりぃ。箸とか持ってこなかったな。今持ってく……」

立ち上がりかけた土方の腕を俺は掴んだ。そのまま自分の腕の中に土方を閉じ込める。土方の細い腰を抱きしめて、土方の頭に鼻を寄せると、香るのは煙草と土方の匂い……。理性が更に音を立てて崩れていくのを感じた。



「……よろ、ずや…?」

状況がよくわからないのだろう。戸惑うような土方の擦れた声。それすら俺には甘すぎて、どんどん理性が溶けていく。




だめだ。落ち着けよ。
頼むからそれ以上の行動はするな。
今から言うから。ちゃんと土方に伝えなきゃいけないんだ。
伝えてもいないうちから行動しちゃだめだっ!



おそらく混乱しているだろう土方を落ち着かせるために、また自分も冷静さを取り戻すために土方の背中を優しく叩く。


「…ごめん、土方。……俺、お前に言いたいことがあって…っ」

「…俺、に……?」

「そう。……言うのが先なのに、手が出てほんとごめん」



土方の強張っていた身体から徐々に力が抜けていく。少し居心地悪そうにもぞもぞしてるけど気にしないことにした。俺が離さないので諦めたのか、小さく溜め息を吐くと少し体重をかけてもたれてきた。……それにすら感動を覚える。少なくても嫌われてない!嫌だったらきっともっと抵抗するはずだもんっ!


「…なんだよ、話って?こんな格好じゃねぇと話せねぇの?」

「いや、別にどんな格好でも話せるんだけど。……あ、嫌?」

「………嫌っつー程でもねぇけど……。話すんなら目ぇ見て話せ」


うっわ!嫌じゃないって言ったの、この子?どーしよ、銀さん嬉しくて死にそう……っ!


目を見て話せ、と言われたので、両腕の力を少し緩めた。それに気付いた土方がゆっくり頭をあげる。わーっ!土方の顔、真っ赤!色白の肌が染まるとものすごく綺麗で…。それに着流しが乱れて、白い素肌が……っ、桃色のなにかが見え隠れしてるんですけどっ!


「はやく言え。なんだ」


着流しの乱れに気付いた土方がしっかり前を合わせた。土方の腰には相変わらず俺の腕が巻き付いてるんだけど、スルーでいいの?…なんか許されてるみたいで嬉しい。



「うん、あのね?」

「…おぅ」

真っ正面から土方の綺麗な顔を見て心がざわつかないはずがない。視線が絡む。
あー、土方の目って少し色素薄いんだよな…。なんかの宝石みてぇに綺麗だ…。もう心臓がどくどく早鐘を鳴らしていて、ほんと口から飛び出してきそうだった。
けど、ここで引くわけにはいかない。伝えなきゃ。伝えなきゃ。…どっから言おうか…。



「…銀さんね、好きな子がいるの」

「…は?」


鳩が豆鉄砲食らった顔ってきっとこれのことだ。土方がぽかんと目も口も開いて俺を見る。…いきなりだったよな…どんだけ話下手だよ!
俺は慌てて少し路線をかえていくことに。



「黒髪で色白の美人なんだけど、目付きも悪ければ、口も悪い。会えば喧嘩ばっかしてんだ。ちょっとからかったくらいですぐキレるし。ヘビースモーカーだから道の往来でも咥え煙草なんだよ」

「…お前、そいつのどこが好きなんだよ?」

「そいつ、すっげー優しいの。ぶっきらぼうに優しいんだよ。仕事が休みの日には飯作ってくれたり、うちのガキどもを動物園に連れてってくれたり、俺の誕生日も祝ってくれたりさ。普段が普段だからそんな優しさが胸にしみるんだよね」

「…ふーん」


土方の顔が曇った。さすがに誰のこと言われてるかわかったか?待って、まだ言い足りない。

もう少し聞いてて。


「でさ、沸点が低いのかしょっちゅう怒ってるんだ。そりゃ美人だから怒った顔もいいんだけど。でもやっぱそいつの笑った顔が一番でさ。綺麗でかわいくて、もう抱きしめたくなるわけ。あんまり見せてくれないから余計そう思うのかもしれないけど」

「……」

「……もう限界でさ。伝えたくて、俺の気持ち。傍にいたいんだ。俺の傍で、笑ったり怒ったり泣いたりしてほしいんだ。ずっと傍にいてほしいんだ……って、え!?ちょ、…土方っ!?」


土方……と続けようとしたんだけど、土方が急に暴れだしたからそれは叶わなかった。


「ちょっと、待って!まだ、まだ話終わってないって!」

「全部言わなくたってわかった!もういい加減離せっ!」


えっ!何この嫌がりよう!?さっきまでおとなしく銀さんの腕のなかにいたのは夢!?幻!?……というか、そんなにまで嫌がるの?俺の話をわかった、って…。それって俺なんて嫌いってこと?男同士だから気持ち悪い?


なんとか土方を押さえ込んで、話を聞いてくれっ!と半ば強引に制す。…腕力、俺のほうが上でよかった。土方の睨みに胸がきりきりしたけど、だって土方が俺の言いたいことに気付いたとしても俺はまだちゃんと告白してないんだ。せめてちゃんと俺の口で伝えたい。



「…土方、俺…」

「何なんだよ、お前。そんな遠回しな言い方しなくたってなぁ、てめぇに好きな女ができて、俺が料理作るのが邪魔になったんならそう言えよっ!」

「…は?」



あれ、おかしいな、土方の言葉は確かに日本語なのに、言ってる意味がさっぱりわからない。


「あのー…、言ってる意味がよく……」

「だから、女ができたんだろ?そいつが飯作ったりガキども遊びに連れてったりしてくれんだろ!?そいつの傍にいたいから、俺が飯作ったりすんのは邪魔だっつーんだろ!?」

「へ?」

「心配しなくても、そんな女がいるならもうお前らに飯なんか作らねぇよっ!馬鹿にすんなよ、お前っ!俺が人の恋路を邪魔するような空気の読めねぇ野郎に見えたっつーのかっ!?」


そう叫んで、またぎゃーぎゃーと暴れ始めた。一瞬ぼうっとした俺もはっとして、慌てて止めにはいる。張り手やパンチが飛んでくるのを、避け、止めて、俺の方も必死だ。だって、なんでこいつ…っ!



「土方、違うっ!何器用な勘違いをしてくれてんだお前はっ!」

「何が勘違いだよっ?いいから離せよ、いつまでひっついて……、大体ひっつく意味なかったろうがっ!」

「待てっ!落ち着いて俺の…っ、話聞けって、バカヤローっっ!!」


鈍いっ!鈍すぎるっ!でも俺の言い方も悪かったのか?くっそ、土方は全然止まりそうにないっ!

「ほんと、おまっ…、!いたたたたっ!髪の毛引っ張らないでくれないっ!?」


あ、やべ、バランスがっ!

「うっわ!」

「んなっ…ぐっ…!」



勢いあまり、俺たちは床に仲良く倒れこむ。なんかこう…土方を下敷きにしちゃって……。えっ!?俺が土方を押し倒したような格好になっちゃってんじゃんっ!!


「……っ、てぇ…」

俺の下の土方が呻き声をあげた。パニクる俺は咄嗟に謝ろうと、下の土方に目を向ける。




どくん。



心臓が鳴った。




彼の漆黒のストレートな髪の毛は流れるように乱れ、色白の小作りな顔をいっそう艶めかしく見せてる。眉を寄せ瞑った目、噛み締められた唇は痛みからだろうが、艶っぽい。とどめにさっきより乱れてしまった着流し。白い首筋や形のよい鎖骨、桃色の乳首も今度ははっきりと見えて…。




「綺麗だ…」

思わず、零れる、言葉。



「っ…はぁ?お前、いー加減どけ…」

「土方、お前、ほんと綺麗だな……」

「は?」


目を丸くする土方。

「今度はかわいい…」

「……お前、…なに言って………」


俺は夢にでも浮かされてるように、土方に言った。
こんな綺麗な人を初めて見たんだ…。
頼むよ土方。ちゃんと俺の話、聞いて?




「さっきの、話の人さぁ…」

「?」

まだわかってないように、俺を怪訝そうに見ながら首を傾げる土方。
土方がわかってくれるように、ひとつずつゆっくりゆっくり説明していく。



「黒髪で色白の美人。目付き悪くて、口も悪くて、キレてばっかで、ヘビースモーカーで」

「……」

「そのくせ優しくて、飯も美味くて、動物園とか行って」

「……」

「笑う顔も怒った顔も綺麗でかわいくて、抱きしめたくて」

「よ、ろずや……」

「俺の傍で、笑ったり怒ったり泣いたりしてほしいんだ。ずっと傍にいてほしいんだよ……。


今、俺の目の前にいる人に」

「な……」







「俺、土方のことが好きだ」






'11.2.6


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