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結局。
今晩の夕飯は土方のうちで食べることになった。
おいおい、これ、一体どんな急展開だよ?銀さんついていけない…嬉しいけど。



「トシちゃんち綺麗ネ。うちとは大違いヨ。やっぱり銀ちゃんにだけに染められなくてよかったアル」

「……」

「だから、神楽っ!てめっ誤解を招くような言い方するんじゃねぇっ!」


確かに、土方のうちは綺麗だった。まあ、さっぱりしているというか…。一人暮しと、屯所に寝泊りするのが多いんだろう、2LDKの部屋には必要最低限しか揃っていない気がした。



「しばらく帰ってなかったが、埃がたまんねぇように掃除はしてた。適当にくつろいでろよ。今、茶煎れる」


そう言って土方は流しの前に立つ。俺たちは言われるがままに炬燵に入り込んでぬくぬくし始めた。あー、なんか手慣れてるなあ…。誰か他にもこの部屋に呼ぶのかな?例えば……。


あ、やべ。忘れてたのに思い出しちゃった…。あの黒いゴリラ。


「ほら、熱いから気ぃつけろよ?」

目の前に置かれる緑茶と煎餅。…なんかいいなぁ。やっぱいいなぁ、土方は。嫁にきてくれないかなぁ。
ふーふーしながら茶をすする。土方はまた流しの前に立って、もう夕飯の準備をし始めた。…すごい量を作らないといけないしな。なんかせっかくの非番なのに、悪かったかな…。俺はちょっと後悔する。



やっぱ俺とじゃ駄目かなぁ…。お前は俺とじゃ幸せになれないのかなぁ…。

「トシちゃん、テレビ見ててもいいアルか?」

「おぅ、いーぞ」


あのさ、神楽ちゃん?君には遠慮という心が……あるわけないか。こんなに俺が傷心なのに、能天気娘が羨ましい。


「銀ちゃん失礼ネ。ワタシいろいろ考えてるヨ」

「……あれ、聞こえてたの?」

「モロ聞こえネ。銀ちゃん最近元気ないネ。なんかあったアルか?トシちゃんに会えたのに嬉しくないアルか?」

「…ばか、嬉しいに決まってんだろ」

「あんまそうは見えないアル」


あぁ、そうかお前。俺と会話するためにテレビつけたのか。なるほど、考えてるなぁ。
テレビから漏れるなんかのお笑い番組の再放送をBGMに、神楽は眉間を寄せて俺が驚くことを告げてきた。



「……ゴリラになんか言われたアルか?」

「は?…なんで」

「銀ちゃん、ゴリラに会ってから様子変ネ。トシちゃんに会いに行かないし、溜め息ばっかりついてるネ」

「……」



これには驚いた。えー、お前、何それ。俺がそんなにあからさまだったのか?お前の女の勘が鋭いのか?
目をぱちぱちさせる俺を横目で見ながら、神楽が更にこしょこしょと話してきた。


「ゴリラに何言われようが関係ないネ。大事なのはトシちゃんの気持ちアル」

「いや、俺もそう思うけどよ……あいつ、優しいだろ」

「優しいアルよ。優しいけどどうでもいい奴にトシちゃんは優しくなんかしないネ。今日もご飯作ってくれるのはワタシたちが好きだからネ」

「………お前のその自信はどっからくるの?」

「…逆に私、なんで銀ちゃんがそんなに自信ないか、不思議ヨ…」

「……」

「銀ちゃん、もうちょっとトシちゃんを信じるがヨロシ」

「……」


くっそ……。こんな一回りも年下の奴に諭されるとは、どんだけ俺ヘタレよ?
けど、なんか元気出てきた。そうだよな、土方にまだなんも言われてないのに落ち込む必要ないよな?こうして自分のプライベートな空間に入れてくれたんだ、結構心許してくれてるってことだよな?

現金なもので、俺は気分を上昇させる。緑茶と煎餅とテレビとともに、土方の手料理を待った。





「待たせたな」

午後6時半くらいに、そう土方が声をかけてきて、目の前に焼き魚が置かれた。ぶりだ。他、筑前煮、ひじきの煮物、おから、漬物、海藻サラダが置かれる。最後に豆腐とわかめと葱の味噌汁とご飯が置かれた。



「すごい!うまそうアル!」

ぴょんぴょん飛び上がって喜ぶ神楽を土方が制した。

「こら、行儀悪いぞ?それに『うまそう』じゃなくて『おいしそう』と言え。女子だろうが」


だからお前は母親か?そしたら俺は父親……っていい加減しつこいからやめよう……。



「冷めないうちに食えや」

「いっただきまーす!」

「こらっ!ゆっくり食えっての!10人前くらい用意したから……」

「マジアルか!」

「神楽、待て!ウェイト!それは俺の焼き魚ーっ!」



いつも通り、食事の場はさながら戦場だった……。





「はあー、もう食べれないアル。おなかいっぱいネ」

そりゃ、あんだけ食えばな……。残ったらタッパーでも借りて持って帰ろうと思ってたのに、見事に空っぽ。
けどひさびさに満足したなぁ……。最近豆パンばっかだったし。はぁー、美味かった。やっぱ土方の手料理は俺の好みにぴったりだなぁ。……しかし何であんな美味いものにマヨという蛇足を付けるんだろう、こいつは。あ、でも土方の料理に小豆をいれたらさらに美味くなるかも…。



「あ、しまったアル!」

「どうした?茶ぁ煎れたぞ?」


片付けを終わらせた土方が、食後のお茶を煎れて戻ってきながら言った。俺も横に座る神楽を見る。


「定晴にご飯あげてないネ!きっと定晴、おなか空き過ぎて泣いてるアル!私先戻るヨ、銀ちゃんっ!」

「おぉっ!?ちょ、ちょ待て!神楽っ!?」


何お前、俺を置いてく気?土方とこんな狭い空間で二人っきりにさせる気っ?……理性もつか、コンチクショーっ!!



「トシちゃん、ご飯ご馳走様でした!また作ってほしいネ」

「次は?」

「ぐらたん、とかいうの食べてみたいネ!」

「わかった。また暇ができたら作ってやるよ。はやく犬のとこ行ってやれ」

土方の手が神楽の頭を撫でる。


「うんっ!お礼は銀ちゃんからもらうヨロシ」

「お礼って……」

俺、お金持ってないんスけど…。



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