嫉妬 【銀時編】@







あの、夢だったんじゃないか?ってくらい楽しかった俺の誕生パーチーから1週間ほど過ぎた、
そんなある日。



あれから、俺は土方と会ってなかった。さりげなく巡回中に会えないだろうか、と街中をうろうろするんだが、とんと姿を見ていない。
3日間も休みだったから書類整理とかの事務処理に追われてるんだろうか?会いたいのにな…なんて残念に思いながらここ数日は過ごしてた。



今日は見事な秋晴れ。雲ひとつない、秋特有のどこまでも続くような青空はとても気持ちがいい。…とか言いつつ、俺は相変わらず家でごろごろしてんだけど。
太陽の光が万事屋の応接室の窓に当たり、ぽかぽかと暖かい日差しが部屋に差し込んでいる。
今日も依頼が入らない万事屋で、新八だけが忙しそうに掃除をしていて。俺は長ソファに寝転がって愛読書のジャ○プを読み、神楽は向かいのソファに座ってババァからもらった女性自信(自身じゃなくて自信だ)を真剣に読みふけっている。




「…あんたら、ちょっとは手伝おうとか思わないんですか?大体あんたたちの家ですよ、ここ」

心底呆れたような、半ば諦めているような声で新八が話しかけてきた。おいおい、今ワンパークいいとこなんだよ、邪魔すんな。

「……こんな汚い家じゃ、土方さんを呼べないと思いませんか?」

「「!!」」

き、きったね〜!



うまく知恵をつけた新八に乗せられて、俺と神楽もようやく重い腰を上げて掃除にとりかかる。
「覚えてやがれ、ダメガネ!」と神楽がメンチを切っても新八はどこ吹く風だ。…ヤロー、調子づいてやがる…。土方という言葉は俺と神楽を動かす魔法の呪文のようで、使わない手はないとか思ってるんだろう。その通りだコンチキショー。

少し土方に料理を習ったせいか新八の腕も少しあがってきてて、それも新八の自信につながっているのかもしれない。あー、新たに新八の弱みでも握らねぇ限り、このままこいつに顎で使われるようになるかもしんねぇぞ…。神楽とここは協力して……。




“ピンポーン”


新八の弱み握っちゃお!計画を頭の中で組み立てていたが、チャイムの音に思考が霧散する。なんだ、また新聞の勧誘かなんかか?依頼だとありがたいんだが、こんな晴れの日に仕事したくねー。日向ぼっこしつつごろごろしてー。


「新八、チャイム鳴ってんぞ」

「はいはい、僕が出ますよ。銀さん、代わりにそこの古紙まとめてくださいね」

「新聞の勧誘、しつこかったら私呼ぶアル。一発で仕留めてやるネ」

「そんな、狩りじゃないんだから…」

パタパタと玄関へ向かう新八。俺は古紙をまとめるためのビニールテープを探す。どこやったっけか…机の引き出しか?一番下の引き出しを開けてみると…あー、あったあった。
ビニールテープを取り出して、応接室の隅にあるごちゃごちゃに積み上がってる新聞や雑誌のまとまりに向かう。結構な量だな…先月出し忘れたんだっけ?めんどいー。



そんなことをつらつら考えてたら、新八の声が廊下から聞こえてきた。…ん?新八以外に、誰か他の声も…?

「…あの、一体どんな御用で…」

「いや、ちょっと銀時に用事がな」




…この声…。



まさか……。



「あ、銀さん。近藤さんが」

「よう、久しぶりだな、銀時」




応接室の入り口から新八に続いて姿を現したのは。
ニカッと。とても人のいい顔をして笑っている、浅黒の肌の男。
いつもの制服を着ておらず着流し・袴姿だが、…真選組の局長。



近藤だ……。








「…いつぶり?」

「あー、しばらく会ってなかったからなぁ。忘れたな」

はっはっはー、といつもの豪快な笑い声をあげる近藤。



忘れた、だと?
嘘をつけ。
あんな風に人を牽制しておいて忘れているはずがない。
今の、人に好かれるお人好しの雰囲気からは想像もつかないような姿を見せたくせに。




「悪い、話があるんだが…少し時間をもらえるか?」

「天下の真選組がうちみたいなとこに依頼ですかぁ?冷やかしならやめろよ」

「相談だ。お前にしかできない。なぁ、頼むよ」

…相談だと?
……嘘をつけ。
顔が情けなく笑ってても目は誤魔化せないんだよ。そんなギラついた目をして、何が『頼む』だ。




「新八、神楽。ちょっと外に出ててくれ。俺はゴリラとちょっと大人の話すっから」

「…え?ゴリラって何?ひょっとして、俺のこと!?」

白々しい近藤のリアクションに顔が歪みそうになるのを我慢しながら、俺はなんてことないように新八と神楽に声をかけた。
新八も神楽も違和感を感じていないようで、「不潔!」だの「変態!」だの罵声を浴びせながら家から出ていった。…うん、ちょっと傷つく…。


けれど、そんなのは。
これからのことを見られるよりずっとマシだ。





「…お前なら合わせてくれると思ったぜ、銀時」

……あの子どもたちにこんな悪い大人、見せられない。








「マジで何の用?わざわざうちにまで来るなんざ」

「ん?まさか、心当たりがないなんて言うんじゃないだろうな?」

座ることもなく。俺たちは立ったまんま会話を始める。
先ほどの頼れるあんちゃんみたいな近藤はどこにもなく、口の端だけ持ち上げた嫌な笑みを浮かべて俺に向き合った。…くそ、前のことを嫌でも思い出しちまう。

近藤に言われて、土方との絆の違いを見せつけられたあの日のことを。
そこはかとなく落ち込んで、想い人にすら激情をぶつけてしまったことを。



今はあのときとは心の持ちようが違う、って思っても。
心のどこかでは土方と過ごした年月の長さや濃さをやっぱり羨んでいるから。
…その引っかかりだけはどうしても拭いきれない。



でも、それだけだ。
土方は、別に全部わかってなくていい、って言ってくれた。
これからいくらでも知れるだろう、って。今の自分は過去もすべて含めての自分だ、って。
だから俺は土方を好きだって気持ちを持っていてもいい、って。すんなり思えたんだ。



だから、近藤の揺さぶりなんて、もう関係ない。





「…心当たり…?別にないんですけど」

「トシとずいぶん仲がいいようだな。トシのこと、諦めたんじゃなかったのか?」

勝手なことを言うな。諦めるなんて一言も言ったことない。
諦めようとしたけど諦めきれなくて、めっさ苦しい思いをしたんだ。




「諦めてねぇよ。今も土方のことが好きだ」




まだ想いは伝えてない。
けれど、気持ちは膨らむ一方だった。土方に会えば会うほど、言葉を交わせば交わすほど。…土方に会えなくたって。
土方が好きで好きでしょうがなくなる。







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