万事屋は手の中にある2つのマフラーを見つめながら。
不意に赤のマフラーを俺の方へ放る。
俺はそれをキャッチして、不安になった。
「…赤は気に食わなかったか?」
店のショーウィンドウに飾ってあった藍色と赤色。
藍色は奴のいつも着ている着流しに合わせて。
赤色は奴の目の色と同じで似合いそうに思って。
かなりの時間、その店で鏡とにらめっこしていたが結局決まらなくて。どちらも買ってしまったんだ。
確かに赤色の物ををこいつが身につけているのは見たことがない。嫌いな色だっただろうか?
しかし、俺の言葉に万事屋は首を横に振る。
そしてそれから言われた言葉に俺は驚いた。
「せっかく2つあるからさ、お前はそっち持ってて。これからの季節、お前もマフラー必要だろ?」
…なんだって?
おそらくぽかんとした顔をしていたんだろう。万事屋がクスリと笑って、またわけのわからないことを言い出した。
「土方、誕生日いつ?」
「は?」
話がいきなり飛んで、俺は目を瞬かせた。万事屋がまた笑う。…優しい笑みで、俺はそれにつられて答える。
「俺、の誕生日は……お前の半分だ」
「半分?……5月5日…とか?」
俺は頷きつつ、何でそんなこと聞くんだ?、と怪訝そうに万事屋を見る。
「んじゃあ、これかなり遅くなっちまったけど。誕生日プレゼントな」
「…はぁ?」
またこいつは、マジわけがわからない…。
「おい、これ俺が買ったつーの」
「マフラーは好きにしろ、ってお前言ったろ?俺はお前にやりてぇの。来年の誕生日にはちゃんとやるからさ。俺の…愛とか?」
「…いらねーし」
「銀さんの愛はレアだよ?もらって損ないよ〜」
「んなこと言って、金かけないようにしてるの見え見えじゃねぇか」
「バレた?」
万事屋がべーと舌を見せて、それに俺はすっかり呆れて笑ってしまった。
まったく、こいつの考えることは突拍子がなさすぎて面白い。…腹が立つことも多いけど、な。
有り難く俺はマフラーをもらい。
短くなった煙草の火を灰皿にもみ消した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、俺は日付が変わる前に私宅に帰った。送っていこうか、とか言われたが。必要ない、って返した。(こちとら真選組副長だっつーの)
「ありがとう、な」
ともう一度礼を言われ。
「こっちこそ、ありがとう、よ」
と返す。
俺は赤色のマフラーをふわりと巻いて、「あったけぇ」と思わず笑った。
この温かさを万事屋もあの藍色マフラーで感じられたらいい、と。そんなことを思った。
この時の俺はほんと呑気なもので。
万事屋の気持ちもあの人の気持ちも、なんにも知らないままで。
だからあんなことになるなんざ、思ってもみなかったんだ。
嵐は、すぐそこまで迫っていた。
END