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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


帰り道。
土方は神楽と手を繋いで俺と新八の前方を歩く。仲良さげな二人を見ながら、俺はちょっと複雑だ。
いちご牛乳をごきゅごきゅ飲みながら、2人を俺は後ろから眺める。そんな距離は離れてないから2人の会話は耳に入ってくる。


俺のテンション低い感じが伝わったのか、新八が呆れ顔で言ってきた。

「銀さん、神楽ちゃんは…」

「わぁ〜ってるよ。神楽は土方のことそういう意味で好きなんじゃねぇってことくらい」

「そうですよ。神楽ちゃんは土方さんを『お兄ちゃん』みたいに見てますから」

わかってる。そんなこと。
けど、醜い嫉妬が止まらない。ずりぃって思っちまう。俺も土方の手を握りたいし、隣にいたいし、笑って欲しいのに。
あ〜…大人気ない。さいあく。



「…銀さんは、ほんとに土方さんのこと好きなんですね」

「!!バカ、新八!土方に聞かれたらどーする!!」

「いたっ!ちょ、本気で殴らないでくださいよ!!」

知るか!お前が悪い!
俺はこんな第三者から聞きました的な展開はごめんだぞ。ちゃんと面と向かって伝えねぇと意味ねぇんだからな。
新八の訴えを無視して、俺はいちご牛乳を喉に一気に流し込む。




そんな俺の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。



「じゃあ、トシちゃんは銀ちゃんのこと好きアルか?」

「ぶほぉぉぉおおお!!??」


あまりの衝撃に、俺は口に含んでいたいちご牛乳を盛大に噴出した。
「のわっ!??」とびびってる新八の声も、その後の罵声もまったく聞こえず、神楽が言った言葉が頭の中をぐるぐると回る。




何?え???
神楽、お前は何を聞ぃっちゃってるの!!??





しかし、その後も神楽の口撃(こうげき)は続く。




「銀ちゃんはトシちゃんのこと好きヨ」



な、ななななななな!!!
なんてこと言ってんの、この子――――――っっ!!??

さっき言ったばっかじゃん!このページ三分の一くらいのところで言ったばっかじゃん!!
告白は面と向かってって、第三者から聞いたなんてもってのほかだって言ってたじゃん!!!
(いや、銀時の頭の中で言ってただけです)

俺は神楽がこれ以上とんでもないことを口走る前に、俺は後ろから神楽の口を塞いだ。

「ひ、ひひひひ土方くん!い、今のはナシ!なんかもうナシ!!」

ナシだ、こんなの!!

俺は、俺はなぁ、告白は2人っきりの夜道でしっぽりとっていう理想があるんだよ!!
何が悲しくて従業員2人の見ているところで告白シーンを公開しなきゃなんねぇんだよ!告白場面に勇気がないからっていって同級生数名についてきてもらう女子中学生かよ!!あれ、この例えってもう古い?そんな女子中学生もういない???




神楽が俺の手を力任せにどかしてきた。

「何するアルか。私、トシちゃんに聞いてるアルよ。銀ちゃんは黙って聞いてるヨロシ」

「いや、これは聞いてられないだろ!邪魔します!全力で邪魔させてもらいます!!」

バカかお前!!こんなの黙って聞いてられるわけないだろ!!
何考えてるんだよ、お前は。土方にドン引きされたらお前の所為だぞ!!



俺は神楽を後ろから羽交い絞めにする、が、神楽はそれを綺麗に払って逆エビ固めをかけてきた。


「ぐぎぎぎ…。…ぎ、ぎぶぎぶぎぶ……」

駄目、こいつに力技でかかった俺がバカだった…。
ばんばんと地面を叩いて限界を訴える。早くこれ解け!も、腰が、腰の骨が折れる…っ。





「それくらいにしとけよ」

あ、天使の声。
その声を聞いた途端、上に乗ってた神楽が離れていった。
俺は一気に弛緩した身体を地面の上に横たわらせて、息も切れ切れにそれでも土方の方を見た。



土方に抱きつく神楽が見えて、やっぱりこっそり羨ましいと思う…。



土方はそんな神楽の頭を撫でながら、ゆっくりと話し出した。







「……嫌いじゃねぇよ………」

え?

俺は土方の顔をマジマジと見た。
夕焼けに染まった、土方の色白の頬。…いや、あれはきっと夕焼けだけの所為じゃない。
恥ずかしそうな、困ったような、それでもあったかい優しい微笑み。



その顔で、土方はこう言ったんだ。



「……嫌いだったらな、飯作ってやったり、一緒に動物園に行ったりしねぇよ」




…そ、そりゃそうだ。
土方は嫌いだったらこんな風に関わってきたりしない。存在自体無視してくるはずだ。
そんなこと頭では理解してたはずなのに。


土方自身からそんな風に言われると…。
しかも、恥ずかしそうな綺麗で可愛い微笑み付きで……。





………か、可愛すぎなんですけど………っ!!!






…いったい、どのくらいトリップしてたのか。
気付けばどこにも土方の姿はなくて、ついでに言えば新八も神楽もいなくて。
俺は勘を頼りに大江戸スーパーに行く。神楽のことだから絶対晩飯も強請ったはずだし、冷蔵庫の中はもう空っぽだから買い物して帰るはずだと。



案の定3人はスーパーの生鮮食品売り場の前にいた。おそらく今日の献立について考えてたんだろう。

あ〜…。何これ。俺って『はぶられるお父さん』の図か?「お父さん、嫌い!」「お父さんの服と一緒に洗濯しないで」みたいな雰囲気かよ?


…ものっそ寂しいんですけど……。



俺も混ぜて欲しくてほそほそとその3人に混ざる。



土方の腕にくっついてるのは神楽。土方の着物の裾を掴んでるのは新八。
がっくりした。
そういや俺、昨日からついてなかったんだ。神楽にプリン食われるしよ…。



そんなテンションがた落ちの俺に気付いてんのか気づいてないのか(おそらく後者だ)、土方が俺に今晩何か食いたいものあるか、と聞いてきた。

「プリン…」

俺はぼそっとそれだけ呟いた。




その晩、土方が作ったプリンは俺が作るやつより甘さが控えめだったけど。
すっごく、優しい味がした。




そのプリンひとつで、あぁ俺って愛されてるかも、って思う俺は。
ほんと、ゲンキンだと思う。







やっぱり土方が好きだな、って再認識した。
そんな一日。








END

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