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動物園に着くと、神楽はおおはしゃぎだった。


「きゃほーー!早く早く!早くこっち来るネ!」

「もう、神楽ちゃん!そんなに急がなくても動物園は逃げないよ」

入場券を出して入った途端、神楽はうわーっと走っていった。普段毒舌になんやかんや言ってくるが、やっぱり年相応なんだと思って途端可愛く見える。



…けど正直、今一番可愛いと思うのは。



俺の隣で優しい顔で神楽を見守ってる、黒髪・色白の子。
土方が、今俺の中では一番だ。



その土方がふと、クスクスと小さく声を立てて笑った。
俺は不思議に思って聞いてみる。「な〜にがおかしいの?」と。

土方は俺のほうに顔を向けて答える。

「昔、来たことを思い出したんだよ」




あ、って思った。
土方は一人で動物園とか…ありえるかもしれないけど、一人じゃねぇって直感で思った。
誰かと、来たんだ…。

……どう考えても、真選組の連中だとしか思えない。




ひょっとして…近藤とか?
…ありうる。


だからつい聞いてしまった。
「…ゴリラと?」

「…俺は人としか出かけねぇよ」

少し棘のある言い方になってしまっただろうか…?
でもなんでもないように土方が返してきた。ゴリラって表現で誰かわかるって、それってもうお前自身がそう思ってるってことじゃねぇの?とか言ってやりたかったけど。俺は今日は喧嘩しに来たわけじゃねぇし、せっかく土方といるのに近藤の話とかしたくねぇし。



俺は近藤に牽制されたこととか思い出したくなくて、俺のほうを睨んでいる土方を見ながら溜め息をひとつ吐いてこう言った。

「今日は俺たちと来てるんだから、俺たちと全然関係のないこと考えちゃ駄目だからね」

「え?」

土方が目を真ん丸く見開いて、そのあとわかんねぇ…っていう顔をした。

ま、わかんねぇだろうけど。


俺は一方的に土方に約束し、土方がその細い肩にかけているクーラーボックスをひったくった。
だって、持たせられねぇじゃん。こんな重いの。
これで、俺は今から夜逃げでもするんじゃないかみたいな格好になっちまったけど。



「お前、それいくらなんでも重いだろ?」

なんだよ、俺も荷物持つぞ?


土方が不満そうに言う。俺は笑った。



「朝飯も作ってくれて、弁当も作ってくれて、更には動物園の入場券も奢ってもらっちゃっただろ。荷物持つくらいさせろって」

「…」


ま、これだけじゃねぇんだけど。



雨の日、俺に肩貸してくれたこと。
俺は本当に嬉しかったんだ。
きちんとした礼も言えなかったけど。この荷物持つのだって別に礼にもなってねぇんだけど。
これくらいさせてくれよ。じゃねぇと、かっこつかねぇじゃん?



すると、土方が顔を顰めて。

「…わり…」

と小さな声で謝ってきた。



「ん?」

「なんつぅか、その…俺は……」

言いづらそうにぼそぼそ呟く土方。顔はだんだんと俯いていく。
…俺はなんとなく土方が言いたいことがわかった。

こいつ、気にしてるんだ。俺の男としての体面ってやつを。
…ほんとに、こいつって…。




言葉に詰まって俯いてる土方を見て、俺は口を開いた。

「おたくが何を気にしてるのか知らないけど、俺はお前に純粋に感謝してるぜ?」

「!」

驚いた土方の顔。…あー、もう、可愛いんですけど!直視できねぇし!
俺はさりげなく目線を外して空を見ながら言葉を続けた。



「だから、多串君も俺に荷物持ってもらうことを純粋に感謝しときなさい」

「…多串じゃねぇし…」


軽めに返した俺の言葉に、土方もわかったようだ。憮然と返してきつつ、ちらっと見た顔は綻んでいる。
あれ、これ俺ちょっとかっこよくね?彼女の言いたいことを推し量ることができるって、彼氏としてちょっと良くね?



…俺と土方、付き合ってないけどね!!





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