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「万事屋!?」

…幻聴、だろうか…。
今、一番聞きたくて一番聞きたくない声がしたように感じた。


「ばか!何やってんだ、傘もささねぇで」

「…え…」

俺の体にボタボタあたってた雨が不意にあたらなくなって。
不思議に思って隣を見れば。
今、一番会いたくて一番会いたくない人物がいた。



「…ひじ、かた…?」

ひじかた…土方だ……。
いつもの真っ黒な隊服に身を包んで、呆れたような顔をして俺を見てる。
自分の黒い傘に俺を入れてくれてて、だから雨があたらなくなったのか。あ、でも今は土方の肩が濡れてる。



俺は、頭が働かなくてぼんやりしてた。なんで土方がここに居るんだ?

「…んで、お前ここに…?」

「あ?こっちまで出張る仕事があってな。その帰りだ」


タクシーとかパトカーとか使わないんだろうか…?
でも、どうでもいいか…。なんかもう、考えるのがめんどくせぇ。




目の前に居る土方にやり場のない想いが暴れて、苦しさが増す。
整った顔、白い肌、薄桃の唇。薄い色素の瞳に映っているのが俺の姿で、愛しさが増す。



なのに。

  オマエガ トシノ ナニヲシッテル?

土方のことを何も知らない俺は。

  コレカラサキモ ズット シルヒツヨウハナイ

きっと、

  トシガ イチバンタイセツニシテルノハ………

土方の『一番大切』になれない。


俺の一方通行なんだ。
自分はもう土方が『一番大切』になってるのに、土方の『一番大切』は違う。

俺の腕は、土方に届かない。俺の手は、土方を触れない。

こんなに、想っているのに。諦めることなんてできないくらいに。


……土方が好きなのに。



「…おい…?なんかあったのか?」

心配そうに俺を見つめる土方の視線がつらくて、俺は俯いた。

「……」



今は放っておいて欲しい。
正直立ち直れるかわからないけれど、せめて今は、土方の傍にいたくない…。そう思った俺が土方から離れようと足を動かそうとしたとき。
耳に飛び込んできた土方の言葉。

「お前らしくねぇぞ?いったいなんだってんだよ?」

(……『お前らしくない』……?)


この言葉に。
俺は激昂した。



「俺らしい…?俺らしいってなんだよ!?お前が俺の何を知ってるっていうんだよ!!?」

「!?」


あ―、土方がびっくりしてる。
土方は何も悪くない。わかってる、わかってるんだけど。
言葉が 止まらない。



「お前が俺の過去を知ってるか!?生い立ちは!?誕生日は!?癖は!?いくつお前は俺のことを知ってるって言うんだよ!!?」

「…」

「…ほらな?なんも言えねーじゃねぇか。俺のことなんかなんも知らねぇくせに、“俺らしい”なんてわかるはずねぇだろ!?適当なこと言うんじゃねぇよ!!」


「……」



言い切って、俺はまた俯いた。濡れてぐちゃぐちゃになった地面を睨む。



あぁ。
終わった。
俺、最低じゃねぇか…?こんなの、ただの癇癪だ。


呆れられたよな…。嫌われた…?
…いっそ嫌われたほうが、俺も諦めがつくかもな…。


けど…胸が痛ぇよ……



「……帰る、わ……」

沈黙が苦しくて、俺は土方の傘から出ようとした。
怖くて土方の顔が見れない。呆れた表情で見られてるのかと思うと、怖かった。



「なぁ…」

土方が俺に声をかけてきた。
大げさなくらい肩が揺れた。そして聞きたくないと思うはずなのに、俺の体は土方の声を聞こうとしている。…心と体はばらばらってか?どれだけ土方を求めてんだよ?心の中で思わず自嘲した。


飛んでくると思った罵声、呆れ声に覚悟していた俺に。
土方の口から発せられたのは思いもよらない言葉だった。





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