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「ちょっと、ゴリラ。お前今まで仕事ほったらかしでお妙にストーカー行為してきたんだろ?多串くんにも休憩あげないと不公平じゃねぇの?」

銀時が鋭い声で俺に食って掛かる。…顔がさっきと打って変わって怖いぞ?わかりやすい奴だな、お前は。

そんなにトシとどこかへ行きたかったのか?…そんなにトシが好きか?

俺は嫌な笑みがこぼれそうになるのを必死で耐えながら、いつもの口調で銀時に返事をしてやる。

お前が真選組の職務の何をわかるって言うんだ、銀時?


「早く見廻り終わらせないと、次の仕事に間に合わないんだよ。銀時、俺がお妙さんとラブラブだからって妬いて八つ当たりするなよ」

銀時の気持ちなどトシに向いているとうすうす気付いている上で、わざとそんなことを言ってやる。

「何適当なこと言ってんだよ。あのゴリラ女とゴリラが仲いいからってなんで俺が妬く必要あるのよ?っていうか、お前等全然仲良くないだろ?」
「お妙さんをゴリラ女呼ばわり!?酷い男だな!トシ、こんな男放っておいて見廻りに戻ろう」

「…どうでもいいけどよ。何で土方の肩に腕を回したまんまなの?暑苦しそうだから離してやれよ」

「トシは別に嫌がってないよ?昔、初めて会った頃からこうしてやると嬉しそうだったよ。なぁ?トシ?」

「え?…まぁ…。落ち着くしな」


トシの顔を肩越しに覗き込むと、いきなり話を振られてびっくりした顔をしたトシがそれでも当然のように同意する。
そうして銀時の方を見れば、表情が歪んで複雑な顔になった。俺は優越感に震えた。そして確信する。

やっぱりお前は、トシに惚れてるんだな?
けど、悪いな?トシは昔からずっと、俺のものなんだよ。


俺は止めとばかりに、更に俺とトシの絆を見せ付ける。


「この間のトシの誕生日のときも、こんな感じで寄り添って一緒に酒飲んだよな。美味かったなぁ、あの酒。結構度数高かったから、トシってばすぐに顔を真っ赤にしてたよな」

「…近藤さんだって真っ赤だったじゃねぇか」


銀時。知らなかっただろ?5月5日はトシの誕生日だったんだぞ?
酔っ払ったトシは本当にかわいくて。俺の肩に安心しきったように寄りかかって朝までぐっすり寝てたんだ。

そんな風に甘えてくるトシなんざ見たことないだろ?
安心しきって顔を摺り寄せてくるトシなんざ見たことないだろ?


…一生お前には見せないし、見られないだろうけどな。



青褪めてる銀時の顔を見て、俺は自分の目論見がうまくいったことに笑いがこみ上げてきた。



と、トシが急に俺の腕から抜け出して、「そ〜〜〜〜〜ご〜〜〜〜〜!!!」と叫びながらすごいスピードで走っていってしまう。
なくなってしまったぬくもりがちょっと残念だったが、まぁ、いいか。
道の往来でいつまでもひっついてるわけにいかないし。


銀時に視線を戻すと、奴はすごい目つきで俺を睨み付けていた。

その目は明らかに俺への“嫉妬”と“嫌悪”。

俺は、トシには見せたことのない、口の端を持ち上げた黒い笑みを見せてやる。そして確信を持って銀時に尋ねた。





「お前、トシが好きなんだろ?」




銀時は息を呑みつつ、それでも俺を睨み付けたまま疑問を口にする。

「…あんた…、なんで…」

「わかるさ。俺のトシに不純な動機で近づく奴の匂いくらい嗅ぎ分けられる」

「『俺の』…?…じゃあ、土方って、…まさかあんたと…」

「勘違いするなよ。俺とトシは親友だ。そして、トシは俺の傍から決して離れない」



俺は、訝しそうに俺を見る銀時を、「お前にはわかるまい」と嘲笑ってやった。


「銀時。お前がトシの何を知ってる?トシの誕生日、トシの生い立ち、トシの過去、トシの嗜好、トシの癖、トシが嬉しがること、トシが泣くこと、トシの夢、…トシが一番大事にしてるもの。なぁ、いくつ知ってる?」

「…!」


はっとしたような銀時の表情に、俺は大声で笑いたくなった。

トシのことを何も知らずに、お前は。そんなんでお前は俺とトシの間に割り入るつもりだったのか?
こんな奴にトシを奪われるかも、と、戦々恐々していた今までの俺自身も嘲笑ってやりたい。

俺は銀時に話しながら、自分の気持ちがどんどん高揚していくのがわかった。


「お前はトシのことを何も知らない。そしてこれから先もずっと知る必要はない」

「トシは 俺のだ」



呆然としている銀時に、俺は更に耳元で囁いてやる。

「一個だけ教えてやるよ。トシが一番大事にしてるもの」


虚ろな銀時の目はそれでもその声に反応する。そんなに聞きたいか?…そんなにトシが好きか?

俺はその姿を嘲笑って、奴にとって残酷な言葉を吐いた。




「トシが一番大切にしてるのは、真選組と……、その局長であり親友の俺のことだよ」


悪いな……




銀時がおぼつかない足取りで帰っていくのを俺は見送った。
このくらい打ちのめしておけば、きっとトシにもう近づいたりしないだろう。
俺は、思いがけず銀時への牽制ができたことにうっすらと笑んだ。


それから、トシの走り去った方向へ行ってみると、トシと総悟がなにやら言い争っている。
総悟の持つ団子が美味そうだ。
総悟に奢ってと言ったらトシに呆れられてしまったが。いいじゃないか、今日はすこぶる気分がいい。



「近藤さん、万事屋は?」

みたらしを頬張っていると、トシがそう尋ねてくる。
お前は、ほんと一旦自分の懐に入ってしまった人間には優しいな。

「ん?銀時?急な仕事が入ったって言って行っちまったよ」

「そうか」


それ以上何も聞かず、ずんだを頬張るトシ。そのそっけなさに、俺はますます気分が良くなった。

銀時。やっぱりトシはお前のことなんざなんとも思ってないようだな。
今思えばトシが自分の左隣を許したのだって、きっと単に『自分より強くてとりあえず信用できる』と思われただけだろう。
知り合いでトシより強い奴なんて殆んど居ないから、だから俺以外で見たことなかったんだ。


知らず、俺の顔は笑っていた。
トシにはいつも見せないようにしていた、黒い笑顔で。
幸いトシは気付いていないようだったけど、気をつけないとな。







季節は、もうすぐ梅雨。

晴れていたはずの空は、だんだんと曇ってきて。
銀時の心のうちを示すようで、俺は更にその笑みを深くした。








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