A






と。
後ろからいきなり人の片腕が俺の左肩から右肩に向かって回ってきて、俺をがっしり捕まえてきた。
俺がその衝撃で後ろにつんのめりそうになるのを、厚い胸板が支える。

俺が驚いて首だけで振り向くと、そこには。
しばらくは戻ってこないだろうと思ってた近藤さんがいた。



「こ、んどうさん?」

「ごめんな、トシ。見廻り再開しようか?」


申し訳なさそうに笑う近藤さん。いつもの表情のはずなのに、俺はなんだか違和感を感じる。
けど、その違和感の正体がわからなくて俺がぼんやりしていると、万事屋の声が耳に入ってきた。



「ちょっと、ゴリラ。お前今まで仕事ほったらかしでお妙にストーカー行為してきたんだろ?多串くんにも休憩あげないと不公平じゃねぇの?」

そう、万事屋が近藤さんに食って掛かる。顔がさっきと打って変わって怖い。そんなにお前俺にコーヒー奢りてぇの?…明日槍でも降ってくんじゃねぇか?

「早く見廻り終わらせないと、次の仕事に間に合わないんだよ。銀時、俺がお妙さんとラブラブだからって、妬いて八つ当りするなよ」
え?万事屋ってあの女のことが好きだったのか?だからんな怖い顔して……。

「何適当なこと言ってんだよ。あのゴリラ女とゴリラが仲いいからってなんで俺が妬く必要あるのよ?っていうか、お前等全然仲良くないだろ?」

え?違うのか?つーか、なんでお前等そんなに苛々してんだ?


「お妙さんをゴリラ呼ばわり!?酷い男だな!トシ、こんな男放っておいて見廻りに戻ろう」

「…どうでもいいけどよ。何で土方の肩に腕を回したまんまなの?暑苦しそうだから離してやれよ」

「トシは別に嫌がってないよ?昔、初めて会った頃からこうしてやると嬉しそうだったよ。なぁ?トシ?」

「え?…まぁ…。落ち着くしな」

いきなり話を振られてびっくりしたが、俺は頷く。途端万事屋の表情が歪んで、怒っているような泣いているような不思議な顔になった。俺の疑問符は増えるばかり。
その顔はなんだ?
えっと…、こういうのは親友だったら当然のことだよな?


「この間のトシの誕生日のときも、こんな感じで寄り添って一緒に酒飲んだよな。美味かったよなぁ、あの酒。結構度数高かったから、トシってばすぐに顔を真っ赤にしてたよな」

「…近藤さんだって真っ赤だったじゃねぇか」

そうだ。5月5日の俺の誕生日はかれこれ3週間前くらいのことだ。毎年のように隊士たちとドンチャン騒ぎをしてから、近藤さんの『とっておきの酒』を2人でしっぽり飲んだのだ。
そのとき俺は結構酔ってしまって、近藤さんの肩に寄り掛かって朝までぐっすり寝てしまったのだ。あれは失態だった……。思い出して、俺は顔のへんが熱くなってきた。





恥ずかしくなって顔を逸らした俺は、ふと視界の端に何かを見つけてそちらに神経を集中させた。

前方に栗色の頭をはっきりと見つける。


……あれは……。


今日、屯所で始末書の整理をやってるはずの総悟じゃねぇか!!?
茶屋の外の腰掛けに座ってのんびり団子を頬張っている。
……あの、馬鹿総悟〜〜〜〜〜〜!!!



「そ〜〜〜〜〜ご〜〜〜〜〜!!!」


俺は近藤さんの腕から抜け出して、呑気に茶をすすっている総悟のもとへ駆け出した。


「あり?見つかっちまいやしたかィ?」

「てんめぇーーーっ!!書類を書くって言うから見廻りを免除してやったんだぞ!?何堂々とサボってんだよっ!?」

「団子が俺を呼んでたんでさァ。ちなみにあと、お好み焼きにも呼ばれているんです。いやァ、人気者ってのはつらいねィ」

「呼んでねぇよ!!お前の一方的な思い込みじゃねぇかっ!!」


俺は力のかぎり怒鳴ってやるが、ほんとこいつには馬耳東風…。あーーーーっ!!苛々するっ!!


そんなことを言い合っていると、近藤さんが隣にやってきて、「お、総悟、美味そうだな」なんて言ってきた。
俺はがっくり肩を落とす。

「『美味そうだな』…じゃねぇよ。あんたがそんなだから、総悟がつけあがってサボりまくるんじゃねぇか…」

「あぁ、そっか。こら!総悟、たまには俺とトシにも奢りなさい!」

「え!?今、いったい何に納得したわけ!?」

「すいやせーん。みたらしとあんことずんだを2本ずつ追加してくだせェ」

「さすが総悟!優しいな!」

「……」

なんか…泣きたくなってきた。近藤さん、あんたさっき『見廻りに早く戻ろう』とか言ってたくせに……。


そうして、ふと万事屋の姿が見えなくなっていることに気付いた。

「近藤さん、万事屋は?」

みたらしを頬張っている近藤さんに俺は尋ねる。

「ん?銀時?急な仕事が入ったって言って行っちまったよ」

「そうか」

まぁ、また会うだろう。飯を作る約束もしたし。
俺もやけになってずんだを頬張りつつ、次行ったときは何を作ってやろうか…と思いを巡らせた。



だから気付かなかった。
近藤さんがどんな顔して笑っていたかなんて。

そしてわかるはずもなかった。
俺があの場を離れた後の近藤さんと万事屋のやり取りがどんなだったかなんて。




季節は、もうすぐ梅雨。

晴れていたはずの空は、だんだんと曇ってきて。
雨の匂いをうっすら嗅いだ気がした。









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