B




俺は、もう一つ、おもっくそ甘い甘いオムレツを作った。
あいつへの詫びのつもりの料理なんだ。あいつの好みに合わしてやらねぇとな。


「うーん」

「銀ちゃんっ!起きたアルか?」

「あー、ヴー…。……あれ、なんかめっさいい匂いするんですけ………ぇええっ!?」

おー、驚いてらぁ。俺はチャイナ娘から事情を聞いて焦る万事屋の様子が面白くて、思わず笑った。


「おはよう、万事屋。昨日は世話になったな?」
「お……はよ、…多串君…。えっと……」

「悪かったな、……布団とか」

不意に、俺はこいつに布団まで連れてってもらったんだ、と思った。
すると、なんだか顔の辺が熱くなってきた。


「……お、重かったろ…」

「あ、いや、そんなでも……」

「…それはそれでむかつく」

ウェイトがないことが何げにコンプレックスだったから、ちょっとムッとした。


「で、これ…」

「…冷めねぇうちに食え」

時間としては遅い朝飯を万事屋たちは食べ始めた。

「うまいアル!これ、マジうまいネ!サイコーネっ!」

「あー…、うん」

「……」


俺はデカ犬(定晴というらしい)にドックフードやって戻ってくると、ハイテンションのチャイナ娘と妙におとなしい万事屋がいた。
ガバガバ休みなく食べ続けるチャイナ娘の姿に目眩を覚えた。こいつ、底無しか?


対して万事屋は静かに噛み締めるように飯を咀嚼している。おかずは確かに減ってるが、その顔はひどく険しい。

…まずいのか?
人の味覚ってヤツは意外に千差万別だから、俺が美味いと思うものもこいつにはまずかったのかもしれない。

無理には食ってほしくなくて(それじゃ詫びにならない)、俺は声をかけた。

「まずかったら無理して食うなよ。今度違う詫び持ってくるぜ?」
甘党だったら団子とかか?と問うと、かなりびっくりした顔をされた。

「…誰もまずいなんて言ってないよ?」

「だっておめぇ、すげぇ怖い顔してるぞ?んな顔していつも飯食うわけじゃねーだろ?」

「いや、これはその……味わってるんだよ」

「あ?」

「ちょっと、真剣だから、まだ俺に話し掛けないで」


そう言って、また黙々と食べ続ける。よくわかんねぇけど味わってんならいいか、と、俺は空いた皿を片付け始めた。
……──あー─煙草吸いてぇ。


「トシちゃんは食べないアルか?」

「は?」
驚いた。今までニコチンだったのにいきなり愛称呼びだ。それはどうかと思って正そうとしたんだが、「こう呼びたいアル……どうしてもダメアルか?」とウルウルな目で見られた。…ロリコンじゃねぇけど、かわいそうになって結局許してしまった。

「トシちゃんも一緒に食べるアルヨ!」

「いや、俺は…」

「ダメアルか…?」

陥落。
屯所に帰ってから食べようと思ってたんだが(万事屋にマヨがなかったからだ)

…仕方ない。まあ、午後の仕事までまだ時間はあるから食べていってもなんら問題ない。


奴らとは向かいあわせのソファに座って食べ始める。
…結構作ったはずのおかずはもう殆どない。俺の分ねぇよと思うが、嬉しさの方が勝った。俺は苦笑いしつつ、僅かに残ったおかずと共に軽めに食事をとる。


ふと、チャイナ娘がオムレツを食べているのが見えた。
こんなに人は嬉しそうに笑えるものなのかってくらいチャイナ娘は喜んでいて、俺は柄にもなくジンとする。

そういえば久しぶりに他人に手料理を食わせた気がする。前はよく道場の連中に食わせていたが、今は仕事が忙しく、それどころではなくなってしまったから……。
やっぱり他人に食べてもらうほうが作り甲斐がある。

するっと目線を横にずらすと、万事屋の方もオムレツに手を伸ばし、じーっとそれを見つめていた。そして、箸で割ってとろっと染みだしたやつを一口口に入れた。万事屋の目が見開かれる。がつがつ半分ほど食うと、ばっと顔を上げてこちらを見た。

「な、なんだ…?甘すぎたか?」

そうだ、万事屋のオムレツはチャイナ娘に言われるがままに砂糖を入れたのだ。


「銀ちゃんにはこのくらい砂糖入れた方がいいネ。わたしを信じるヨロシ」

さすがに甘かったよなぁ。砂糖の入った容器がありえないくらい軽くなったし…。
とにかく、内心どぎまぎしながら万事屋の言葉を待つ。すると、あいつは噛み付かんばかりの勢いで、「多串君っ!」と叫んだ。
がしっと右手を箸ごと万事屋の両手で掴まれて、思わず身体を後ろに引いた。


「なっ…なに…?」

驚きすぎて声が引っ繰り返る。手をいきなり物凄い力で掴まれたら誰だって驚くだろう。
目をキラキラさせながら俺を見つめる万事屋に、俺はなんだか嫌な予感がした。

案の定、次の万事屋の言葉はさらに俺を驚愕させる………。




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