A




俺は万事屋にいろいろ聞きたいことが、もういろいろあったが、あんまり気持ち良さそうに寝てるので気が引けた。ただでさえ公園から俺をここまで連れてきたんだ。寝かせておいてやろう。

借りはしっかり返す。
喧嘩はもちろん、好意に対してもそれは変わらない。

かといって何をしようか…と考えを巡らせて周りを見渡すと、ふと台所が目に入った。

朝飯、でも作るか…。
無断で冷蔵庫をあさることになるが、後に拝借した材料の費用を返してやればいい。

そう判断して、俺は台所の流しに立った。


「クゥ…」

「あ、デカ犬」

名前は忘れたが、確かチャイナ娘のお気に入りだ。

「静かにしてろよ?怪しいもんじゃねぇから」
腹減ったか?と尋ねれば、「クゥン」と鳴く。

俺は手を伸ばして、犬の頭を撫でてやった。犬が気持ち良さそうに目を細めてる姿に自然と顔が綻ぶ。

「今飯作るから。お前にもあとでドックフードやるからな?いい子で待ってろよ?」

犬は嬉しそうにしっぽを振った。




冷蔵庫の中は意外にいろいろ入ってた。安いときにまとめ買いしたのかもな……だがごちゃごちゃし過ぎだろう。
性格上、こういうのが許せない俺は、料理を作りながら冷蔵庫の中身を整理する。

米を研いで炊飯器にセットする(早炊きだ)。
シャケがあったので照り焼きにする。
ほうれん草ともやしをゆでておひたしを作り、
油揚、チンゲンサイ、きのこ、じゃがいもで味噌汁をこしらえた。

あとは、きゅうりとキャベツで浅漬けを作るか……と考えてきゅうりを切っているところで、どこかが開いた音がした。


「あっ!ニコチン?何やってるアルかっ?」
ニコチン…?それは俺のことだろうか。

振り向けば、明らかに自分を指差しながらチャイナ娘がこちらを睨んでいる。

「おはようさん。もう8時過ぎてるぜ?寝すぎじゃねぇの?」

まぁ、こちらもこの少女をろくな名前で呼んでいないし、仕方ねぇかと考えて。普通に挨拶してやる。
すると、今まで睨んでいた娘の顔がみるみる笑顔に変わっていった。

「これ、なにアルか?ひょっとしてお前が作ったアルか!?」

飛び付くようにテーブルに近づいていった。
出来上がったやつは埃がかからないように広告を乗せてテーブルにあげていたからな。その匂いがしたんだろう。広告を摘んで料理を見るなり、だらだらと涎を垂らしている。

「こら、チャイナ娘。行儀が悪いぞ?それに、挨拶はしっかりするもんだぜ」

その俺の言葉に、チャイナ娘は驚いたらしく、こちらをじっと見つめる。そして、「……おはようアル」とほうけたように挨拶した。…まあ、よしとするか。

「顔洗ってきな。もうじき飯も炊けるぜ」

「はいアル!」

元気よく洗面所に入っていった。おー、素直なところもあるじゃねーか。俺は笑った。


「ニコチン、料理得意アルか?」
チャイナ娘は顔を洗ってくると、俺にくっついてまわった。料理している作業をが面白いのか、にこにこしながら見ている。

「まぁな。料理作るの趣味でよ」

「何でここで料理してるアルか?」

「……昨日、お前の雇い主に迷惑かけたみたいでな。そのお詫びだ。安心しろよ、ちゃんと材料費は渡すからよ」

勝手に冷蔵庫あさってわりぃな、と言えば、チャイナ娘はかまわないネ!と笑った。


「冷蔵庫、綺麗に整頓されてるアル。これもニコチンがやったアルか?」

「あぁ。整頓しといた方がいいぞ?あんまりぎゅうぎゅう詰めだと電気代を余計にくうんだ」

「マジでカ?ニコチンすごいネ、物知りネ!」

「…んなことねぇと思う」


苦笑いしながら、俺は卵を割った。卵焼きを作ろうと思ったのだ。

「ニコチン、なに作るアルか?」

「ん?卵焼きだ」

「…ニコチン、リクルートヨロシ?」

「リクルート……ひょっとしてリクエストか?」

「それアル」

なんだ?と、チャイナ娘の方を見ると、顔をほのかに赤らめている。

「言ってみろよ。作れるやつだったら作ってやるぜ?」

なかなか言えなさそうなチャイナ娘になるだけ優しく話し掛けてやると、意を決したように口を開いた。

「わたし……おむれつっていうの、食べてみたいネ……」

「オムレツか…わかった。作ってやるよ」

そう言って、チャイナ娘の頭をくしゃりとまぜた。


「できたぜ」
我ながらうまく出来た。ふわふわのオムレツ。

「うわーっ!これがおむれつアルかっ?」
チャイナ娘はきゃあきゃあ言いながらオムレツののった皿をまじまじと見つめる。

「しかし、なんだってまたオムレツなんだ?」

「ん〜、銀ちゃんが食べたいって言ってたから、どんなのか見たかったアル」

「……万事屋が?」

しまった、あいつ洋食派か?ついいつもの癖で和食を作っちまった……。

そのことをチャイナ娘に問うと、そんなことないネ、と返された。

「銀ちゃん何でも好きネ。その中でも甘いものがめっさ好きで、甘い料理が好きネ。だからかぼちゃ煮とか煮豆とか甘い卵焼きとかすっごい好きヨ」

「甘党……なのか」

あー、俺はあんまり甘い卵焼きは好きじゃねぇな。そうか、だからあんとき………。


あんとき……
昨日の夜感じた甘い匂いは、そっか……あいつのか。

甘党ならあの甘い匂いも頷ける。


じゃあ、昨日の綺麗な銀糸も、もしかしなくてもあいつの頭だったのか…?

あれを「綺麗」と形容した自分に恥ずかしさを覚えて。誤魔化すようにまた作業に没頭した。




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