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「トシ〜。考え事とは余裕だな」


はっとしたような顔で俺を見つめてきたトシに、考え事をしていたというのが事実だとわかった俺はむっとして、トシの弱い首筋に噛み付いてやった。まぁ、トシを傷付けたくはないので(こんな白い綺麗な肌に傷なんて付けたくない)優しく噛んでやる。

「あ、うっ…」

また俺にもやもやと嫌な気持ちが湧いてきた。さっきまで話してたのは銀時のことだ。まさか…。

「…銀時のことか?」

「ひ…ふ……」

「……なぁ…、何考えてた?」

首筋に甘噛みしながら、俺は自分の声がひどく低いことに気付いた。
答えてくれよ、トシ。答えないと、俺、どんどんトシに意地悪いことしちまうよ?

銀時のことなんか考えてない、って、そう言ってくれよ。



「や!やぁ…、まっ…て…っ、こ、んどーさんっ!」

俺の指がちょうどトシの乳首に当たってしまったようだ。身を捩って逃げようとするトシを許さず、そのままトシの乳首を偶然を装って優しく押してやった。小刻みに、何度も。トシが、ここが弱いということは知っている。トシは気持ちよすぎてしまうのが嫌らしく泣きそうで(気持ちよくてなんで嫌なんだろう?)、そんな姿にもむらむらとくるが、と同時に苛めすぎてるかなと胸が少し痛んだ。

「だめっ…いやだって……っ!ちがっう…」

トシが舌足らずに一生懸命話してくる。

「何が違う?」

「あんっ…。お、れの、…話きけ、よ…」

うん、聞くよ。トシの話。

「ん?」

俺はトシから少し離れて、トシを真上から見下ろした。


トシの目は潤みきって、何筋か涙も零れていた。
肌も桃色に染まり、肩で息をしながら切なそうに俺を見上げている。



…あぁ、綺麗だよ、トシ。



トシはやっとのことで息を整えて、にこっとほんとに綺麗な笑顔を向けながら両腕を俺の首に回し、爆弾発言をしてきた。

「早く近藤さんのことを婿さんにしたいっていう女が現れるといいな、って思ってただけだ」

「え?」

一瞬、何を言われたのかわからなかったが。


「近藤さんが幸せそうにその女と笑いあう姿想像してたら、なんか嬉しくなっちまってなぁ」

「…トシ…」

徐々に、ほんとにじわじわと幸せな気持ちが俺の中を占める。

「俺が考えてんのは、真選組の安泰と近藤さんの幸せだけだよ」

そう言って、トシは腹筋を使って上半身を持ち上げて俺の唇に優しくキスをくれた。




俺は呆然とした。
こんなにトシに想われて、なんて俺は幸せなんだ。俺たちの仲を裂けるものなんか存在しない。俺たちは…。


呆然とした俺に焦れて、トシは「近藤さん?」と話しかけてきた。

はっとした俺はもう堪らずトシに押しかかった。あ、しまった、手加減なんてなんもしてない。

気付いた時にはトシを下敷きにして、その身体をうちつけてしまった。
トシの苦しげな声を聞いて、慌てて「大丈夫か、トシ!?」と声をかけたら頷いてくれたからほっとした。

「…ったく、俺だからいいようなものの。女相手だったらもうちょっと加減しろよ」

「わ、悪い、トシ。どっか痛いか?」

「へーきだ」

「トシ…お前って奴はなんてかわいい奴なんだろうなぁ…」

トシはふふんと笑っている。なんかそんな得意気な顔もかわいくて仕方ない。

「俺はお前が隣りにいて幸せだよ」

本音だった。トシに会えてよかった。トシが、俺の隣りを選んでくれて、こうして俺を支えてくれていることが本当に幸せだと思った。

「そりゃ、副長冥利に尽きるな。いや、親友冥利か?」

くすくすとトシはほんとにかわいく微笑む。もう、お前は…っ!

「好きだよ、トシ。大好き」
いてもたってもいられず、トシに今の気持ちをぶつけてみる。

「はいはい、俺もだよ。近藤さん」
トシはしょうがねぇなぁという感じで、間髪いれずに応えてくれる。それでも嬉しくって、相思相愛だな、俺たち!!と叫びながらトシに抱きついた。トシが優しく俺の背中に手をまわしてきたのを合図に、トシにまた口付けた。
そして、散々甘えさせてもらった。
トシの切なげで綺麗な表情、抑えきれない甘い声と吐息、どこに触れても震えて感じ入る身体に、俺は甘えまくった。



「あっ…いや……っ!近藤さんっ………!!」

「かわいいよ、トシ。…大好きだよ……トシ…」

「あっあん……んっ、ふぅ…っ」

「トシ…。ずっと、俺の隣りにいろよ………」

もう俺の声は聞こえてないかな?それでも言いたかったんだ。

震える身体を背中から抱きしめて、肌蹴た着流しから覗いたうなじに口付けた。


「でな、銀時がな」
ひとしきり甘えて、非常に満足した俺はトシに話し始めた。

非常に満足はしたんだが。…ちょっと俺は一計を図る事にしたのだ。

「お前の事、ちゃんとした名前で呼ばないだろ?」

「……あぁ、そうだな」

トシは思い出したのか、目が三角になった。

「それがどーしたんだよ?」
トシはいらいらしたまま、うつ伏せに寝転がったまま傍らの煙草類を傍に寄せ一本銜える。
火をつけて紫煙を吐き出す様を見ながら、俺はトシの上に上半身の半分を乗せた。トシの着物越しに伝わってくる体温に心地よさを感じた。…おっと、うっとりしてる場合じゃない。

「なぁ、あいつ、未だにトシの名前知らないのかなぁ」

「…え」

意外だったのか、トシが動きを止めた。

「こんな長いこと顔合わせてるのに、覚えられないなんてなぁ」

「……あいつ、バカだからな」

「うん、バカってのもあるけど。俺や総悟の名前も平気で間違えるだろ?基本あだ名呼びで、そのあだ名もろくなもんじゃないし」

「……」

トシは沈黙する。多分今思い出してるんだろう。俺は少し間を置いてから話を続けた。

「俺たちってよっぽど嫌われてんだろうなぁ」

「!!」

トシの身体がぎくっと揺れた。これは動揺したのだろうか?ちょっと嫌な気持ちになった。

「そうじゃなきゃ、あそこまで名前を呼ばない理由が考えられないだろ?そう思わない?トシ」

俺はトシがどんな顔しているのか気になって、トシの上からおりて、トシの顔を覗き込んだ。

「……そ、そうかもな…」
……トシは平静を装っていたけど、その顔は少し歪んでいた。


何?その顔…。銀時に嫌われて自分は傷つきました、って顔をしてる。

そんなにトシの中に銀時は巣食ってるのか?そんなに?嫌われたら傷つくくらいに?


トシの、銀時への怒りを倍増させてやろうと思った俺の作戦は失敗したらしい。
怒りではなく、トシを傷付けてしまったようだ。

傷つかなくていいよ?だって、銀時がトシの事を嫌いだとしても関係ないだろ?

トシは俺のものなんだから。俺がトシの隣りにいつまでもいるんだから、真選組の仲間だってトシを慕って傍にいるんだから、他の奴なんて気にしなくていいじゃないか。



あぁ、嫌な予感っていうのは当たるんだ。

いい予感っていうのは全く当たらないくせに。





駄目だよ、トシ。離さないよ。
お前は俺のだ。他の奴を見ちゃ駄目だ。
トシは、ずっとずっと俺の傍にいるんだ。これは決定事項なんだ。絶対なんだ。
トシ、お願い…。そんな目で他の奴を見るなよ……。





…………俺は、壊れるかもしれない…………。





近藤勲、もうすぐ三十路。
もう戻れない穏やかな春を、愚かにも願った。




END

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