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俺は今恋をしていた。
キャバクラで会った美しく菩薩のような優しい女性、お妙さんにフォーリンラブだった。

しかし、そんな彼女がなんと、許婚がいると言うではないか!

激昂した俺は、その許婚に決闘を申し込んだ。絶対に負けられない……!!
負けられなかったはずだったのだが…。あいつ……っ!!


俺は、ものすごく不本意な惨敗の仕方をしてしまった。




もう、ギザギザハートだ、ブロークンハートだ、ハートブレイクだーーーーっ!!


気絶から目覚めて、屯所だと気付いた俺は、もう真っ先にトシの部屋へ向かった。

バーンっとすごい音を立てて、俺はトシの部屋の障子を開ける。
トシはいつものように文机に向かって書類を書いていたようで、びっくりしたようにこちらを振り返っていた。


多分、よっぽどひどい顔だったんだろう。
銜えていた煙草をすぐに灰皿に押し付けて、もうほんとに優しい顔でこちらに身体を向けて両手を広げてくれた。

もう、お前は俺のお母ちゃんみたいだよ、トシ!!


「トシ〜〜〜〜〜〜っ!!!」

もう、そんなトシの優しさに全身で甘えまくろうと、がばっと強く抱きしめた。

よしよし、というように頭を撫でてくれる。ポンポンと背中を優しく叩いてくれる。
トシの体温、トシの匂いがほんとに落ち着く。
あーーー、もう、お母ちゃん!!!


「何があったんだ?近藤さん」

「……まだ話したくない」

「近藤さーーーん」

「しばらくこのままで。…頼む」

「ったく…。しょうがねぇなぁ」

トシは優しい。まぁ、誰にでも優しいんだけど。
俺には特別優しい。甘やかしてくれる。

もう、甘えさせてくれ。今日はほんとにブロークンなんだ。俺を癒して、トシ。

「トシ…」

「ん?…キスか?」

「うん」

「…ったく。甘えため。ほんとに局長かよ?」

しょうがねぇなぁって感じで、でもトシも満更でもないってこと知ってるよ?


親友ということで、トシにはスキンシップという形で教えたそれ。
でも、絶対親友同士ではそんなことしない過剰なスキンシップ。

トシ、ごめんな?騙すつもりじゃなかったんだけどな。
トシにそうされたり、トシにそうしたりするとほんとに俺は癒されるんだ。
傷ついても苦しくても、また頑張れる力が湧くんだ。
ほんとなんだ。
だから、許してな?



トシは羽のような口付けを俺の額に落としてくれた。
目尻にも、頬にも、鼻先にも落としてくれた。そして、唇にも。

不意に綺麗な色素の薄い瞳が、俺の視線と絡んだ。恥ずかしそうに頬を染めて俯くトシを追いかけて、その薄い桃色の唇に自分の唇を押し付ける。啄ばむようなキスに我慢ができなくて、薄く開いたトシの口の中に舌を割り込ませた。


「ふ…ン…」
少し苦しそうに、トシが鼻から息を吐いた。

煙草を吸ってたトシの口内は苦いのに、いつもどこか甘く感じて。角度を変えつつ、夢中になってトシの口内を俺は舌で好き勝手に弄んだ。
おずおずと舌を差し出したトシに自然と笑みがこぼれ、それを自分の口内に迎え入れる。甘噛みしてやると、ぴくんと身体が震えた。
…かわいいな、トシ。


「…ふぅ…ん…っ、……はっ」

「トシ、ありがとな…」キスをといてトシを見つめると、色白の肌は桃色に染まっていて、目が潤んでて、唇は互いの唾液に濡れて本当に綺麗だった。
でも目は虚ろで視点が定まってない。俺の声、聞こえたかな?



「大丈夫?トシ?」

含みきれなかった唾液がトシの口から流れてて、それすら綺麗の要素で。惜しいなぁと思いながらもそれを手で拭ってやった。

はっとしたように、トシは視点を俺に合わせた。次には気まずそうに目線を外して、横を向いてしまった。


もう、照れ屋だなぁ、トシ。
今度は目の前に形のよい耳が現れたので、そこに唇を寄せる。

「トシのおかげだ。トシのおかげで、俺はまた頑張れる」

「んっ!」

トシは耳が弱い。
耳元で優しく囁いてやると、首を竦めて目を瞑った。
ほんとにかわいいよ、トシ。

「でな、トシ…。聞いてくれるか?」

俺は漸く決心を固めて、今日あった情けない話を全てトシに話した。





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