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その日。

いつものように総悟と見回りしていたらチャイナ娘が現れて、総悟は追いかけて行っちまいやがった。
あの野郎、堂々と仕事サボってデートかよ!?(←土方にはそう見えた)帰ってきたらただじゃおかねー。


それで一人で見回りしていると、前方から今一番会いたくない銀髪の男がやってきた。


「多串君、見回りですかぁ??」

ずき……と、胸が痛んだ。
おかしい話だ。俺は昨日の近藤さんの意見を気にしすぎてる。
大体こいつが俺を嫌おうが何しようが、…名前すら覚えてなかろうがどうでもいいはずなのに…。


いつもは怒鳴るのに、大声すら出なかった。一言、「……俺はそんな名前じゃねぇ。ばか…」なんてしおらしく返した。

万事屋はいつもの反応じゃない俺に困惑しているようだ。
へ、ざまぁみやがれ、とか思ってる俺も大抵ガキだ。
反応の薄い俺をからかっても面白くないだろ。
とっととどっか行け。そして、二度と顔見せるな。
大体嫌いな奴に話しかけるなんて、こいつどんな倒錯的思考の持ち主だよ?

このとき既に俺は、「万事屋が真選組を嫌ってる」というのはただの近藤さんの意見である事を忘れて、事実と思い込んでいた。


「なんか、『多串君』って感じなんだよ。イーじゃん、俺しかこんな呼び方しないって、なんかよくね?」

万事屋が懲りずに話しかけてくる。
なんなの、お前?どこまで倒錯的なんだよ?

「よくねーよ…。どこの世界にいつまでも間違った名前で呼んでくる知り合いがいるんだ」

「俺の知り合いもいつも名前間違うぜ。金時って呼びやがるんだ。ったくさー、俺が金時だったらこの漫画終わりじゃんねぇ?」

「そのときは俺が主人公やらぁ」

「主人公は銀さん以外務まりません!」

なんだそりゃ。どっからくんだよ、その自信。

必死な奴の姿にちょっとだけ笑う。
そして、こいつも知り合いに名前間違われてんのか。ざまぁみろよ、てめぇの気持ちはまんま俺の気持ちだぞ。


「大体、てめぇ俺の名前すら知らねーだろ。どうでもいいことだよな、お前にとっちゃ…」

「土方…」

不意に名前を呼ばれて、驚いて万事屋の方を向いた。
あいつはなんかぼんやりとした顔してて、いつもの憎々しさはなりを潜めてた。



なんだ、お前…。

「知ってんじゃねーか…」
俺の名前、知ってんのかよ………。





どうやら、あいつも俺と一緒で、俺のことを嫌だけど嫌じゃないらしい。
あの複雑そうな顔で、なんとなくピンときた。なんだ、てめぇも俺と一緒かよ。


きっと、あいつが俺のことをまた「多串君」とか呼んでも怒鳴り返してやれるだろうと思った。




その日以降。

「多串君!!」という言葉は変わらなかったが、やたらと人にスキンシップしてくるようになった銀髪の姿があった。


……なんだか俺は、大型犬を2匹飼ってるような気分に陥った。







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