B




「トシ〜。考え事とは余裕だな」

しまった。
なんかいろいろ考えすぎて舌がマグロ状態だったらしい。

俺が違う事考えてたと勘違いした近藤さんが、首筋に噛み付いてきた。


「あ、うっ…」

「…銀時のことか?」

え?万事屋??なんでそこであいつの名前…う…駄目だって近藤さん!そんなところに噛み付かれたままだと、答えようにも答えられねぇよっ!


「ひ…ふ……」

「……なぁ…、何考えてた?」

首筋に甘噛みしてくる動作は優しいのに、声がまるで地底を這うみたいに恐ろしい。
なんでそんな怒ってんだよ?舌、ちゃんと絡めてやれなかったのは謝るから…。
あっ!


「や!やぁ…、まっ…て…っ、こ、んどーさんっ!」

近藤さんの指がちょうど俺の乳首に当たってる。身を捩って逃れようとするけど、…例の如く逃げられない。それどころかその近藤さんの指に小刻みに押されてる気がする。そこは嫌だって言ったのに!

「だめっ…いやだって……っ!ちがっう…」

「何が違う?」

「あんっ…。お、れの、…話きけ、よ…」

「ん?」


漸く近藤さんが離れてくれて、俺を真上から見下ろしてきた。
その目はなんかこう、獰猛なゴリラだな、きっと。

…ったく、この甘えた近藤さんはほんとどれが地雷なのかわからない。
とにかく、息を整えて。



俺は近藤さんを見上げて、その首に自分の両腕を絡めた。

「早く近藤さんのことを婿さんにしたいっていう女が現れるといいな、って思ってただけだ」

「え?」

「近藤さんが幸せそうにその女と笑いあう姿想像してたら、なんか嬉しくなっちまってなぁ」

「…トシ…」

「俺が考えてんのは、真選組の安泰と近藤さんの幸せだけだよ」

そう言って、俺は腹筋を使って上半身を持ち上げて近藤さんの唇にキスをした。


少し呆然としたままの近藤さんに焦れて、「近藤さん?」と問いかけると、はっとしたように俺に推しかかってきた。
布団は敷いてあったものの、軽く身体をうちつけてうっと声を漏らす。

その声を聞いて、また慌てたように近藤さんが「大丈夫か、トシ!?」と声をかけてきたから頷いてやった。

「…ったく、俺だからいいようなものの。女相手だったらもうちょっと加減しろよ」

「わ、悪い、トシ。どっか痛いか?」

「へーきだ」

「トシ…お前って奴はなんてかわいい奴なんだろうなぁ…」

近藤さんがしみじみとつぶやくのがなんかおもしろくて、その台詞は男として多少突っ込みたい事もあったのだが、まあ我慢してやった。



「俺はお前が隣りにいて幸せだよ」

「そりゃ、副長冥利に尽きるな。いや、親友冥利か?」

「好きだよ、トシ。大好き」

「はいはい、俺もだよ。近藤さん」

相思相愛だな、俺たち!!と叫ばれてがばりと抱きつかれた。
全く、でっかい犬みたいだ。あれ?ゴリラだっけか?

その逞しい背中に腕をまわしながら、俺は結構失礼な事を考えた。





「でな、銀時がな」

ひとしきり甘えられて、その…なんだ、俺は恥ずかしい声とか出しちまってちょっといたたまれない気持ちになってたんだけど…、満足した近藤さんが俺に話し始めた。


「お前の事、ちゃんとした名前で呼ばないだろ?」

「……あぁ、そうだな」

そうだ、あの野郎、未だに俺のことを「多串君」とかふざけた名前で呼びやがるんだ。
ほんとあいつ、嫌がらせにもほどがあるっつーの!!


「それがどーしたんだよ?」

いらいらしたまま、行儀が悪かったがうつ伏せに寝転がったまま傍らの煙草類を傍に寄せ一本銜える。

火をつけて紫煙を吐き出すと、近藤さんが上から上半身の半分を乗せてきた。
…ちょっと重い。


「なぁ、あいつ、未だにトシの名前知らないのかなぁ」

「…え」

「こんな長いこと顔合わせてるのに、覚えられないなんてなぁ」

「……あいつ、バカだからな」

「うん、バカってのもあるけど。俺や総悟の名前も平気で間違えるだろ?基本あだ名呼びで、そのあだ名もろくなもんじゃないし」


そうだ、基本的にあいつはあだ名で人のことを呼ぶ。
近藤さんはゴリラとかストーカーとかだし、総悟は腹黒とか総一郎とか…。


「俺たちってよっぽど嫌われてんだろうなぁ」

「!!」

「そうじゃなきゃ、あそこまで名前を呼ばない理由が考えられないだろ?そう思わない?トシ」

「……そ、そうかもな…」




…なんだ?なんか、一瞬…、すっげぇ胸が痛かった…。


俺は自分の感じた不快感の理由を探すのに必死で、そのときの近藤さんがどんな顔してたかなんて全然わからなかった。



なんでこんなに不快なんだ?

そりゃ、人に嫌われるなんて不快以外の何者でもないだろうけど。そりゃそうなんだが。


…結構いろんなところで顔あわせて、緊急事態には不本意ながらも手を貸したり貸されたりしてる間柄で、「嫌われてる」って事実はいつもより痛いものなんだ、と気付く。

俺はそこまであいつのこと嫌じゃないけどな…。
…嫌だけど、そんなには嫌じゃない。嫌だけどな!

あいつは心の底から嫌なのか…。だから、あんなに人のことバカにすんのか?

ほんの少し、ほんとにほんの少しだけ。俺はその日、落ち込んでいたかもしれない。




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