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思えば、あいつとの出会いはのっけから最悪だった。



テロリストかと思って斬りかかれば、なんかすげぇこと言われた。
瞳孔がなんだとこら。
こっちだってそんな死んだ魚のような目ぇしたやつ見たことねぇよ。煌くとか、あれ嘘だろ?

しかし、あの爆弾の処理の仕方には驚いた。まさかあんな命知らずな芸当してみせるなんて…。
おかげで被害は最小限だったが、どうも納得いかなかった。



一体何者だ、あいつぁ?ただの一般市民に全く見えない。桂とも関連がありそうだったんだが、わかったのは元攘夷志士ということだけ。たたけどもたたけども桂とは今は接点がないらしく、何も出てこなかったらしい。ちっ。


そんなわけで気にはなっていたんだが、よもやあんな形で再会するとは思わなかった。



今度は、近藤さんが銀髪の侍に騙し討ちされたという。
殺気立つ隊士たちに俺は溜息をついた。
いくら騙し討ちされたとはいえ、近藤さんが勝てなかったのにお前たちが勝てるわけねぇだろ。…俺が出るしかないな。


あの、近藤さんが負けた夜、ワンワン泣く近藤さんを誰が慰めたと思ってんだ。
こっちは来週中に終わらせなきゃいけない書類がたんまり残ってたっていうのに…。

近藤さんは色恋でなにかあると俺のところに来て逐一報告しに来るんだ。
ったく、俺はあんたの母ちゃんか。いい大人なんだから別に俺に報告する事ないだろ。

さらに、振られたなんてことになったらあの甘えたが倍になる。
息すら苦しくなるくらい引っ付かれて、キスされたり、いろんなとこを触られる…。その夜も散々だった。

…しょうがないけどな、なんせ近藤さんのためだし。「癒してくれてありがとう、トシ」なんて涙でぐしゃぐしゃの顔で礼を言われたら、もうしょうがねぇって気になった。



かわいそうになぁ…近藤さん。俺はいい男だと思うんだけどな。
優しいし男気に溢れてるし…バカでゴリラだけどさ。

近藤さんなら惚れた女は一生どんなことがあっても守ってくれるぜ?ったく、女は男を見る目がねぇな。



そんなこんなで、俺と総悟で近藤さんをのした銀髪の侍とやらを探しに行ったのだが。
そこで俺は、あのときの死んだ魚の目をした男ともう一度会ったのだ。

奴はほんとに強かった。
俺の刀をあっけなく折って、あいつは勝ちやがった。

そして、奴にも、あんな死んだ魚の目をした奴にも、守るものはあるらしい。
俺はあいつへの評価を少し改めた。




……そっか。人は見かけじゃねーか…。

負けたっていうのに、なんだか晴れ晴れとした気持ちになった。近藤さん、悪ぃ。


きっと近藤さんを騙し討ちしたのにも、なんかよくわからんがお前なりのルールって奴を通したんだろ?

あとで志村妙に聞いた話で、俺は更に納得して、また少しあいつへの評価を改めた。





それでも、あいつに会えば喧嘩ばっかりだった。

一度負けたってこともあるせいか、やたらあいつとの勝負に躍起になった。

あいつときたら人のこと「多串君」なんてわけのわからないネーミングで呼んでみたり、やたらからかってきたり、ほんと腹立だしいこと山の如しだった。むかつく。

無視しても、大声で怒鳴ってやっても、蛙の面になんとかってやつで。こんなに腹立つやつ、総悟以外で初めてだぜ…!





そんな中、近藤さんが夜俺の部屋を訪れて、またのしかかってきたときに変な事を言い出した。
俺は布団に仰向けに寝かされて、近藤さんはその横に寝て、少し上半身をあげて両腕を俺の顔の脇において見下ろしていた。


「最近、銀時とトシ仲いいよな」

「……………はぁ??」

一瞬何を言われたのかわからなくて呆け、たっぷり30秒後、俺は間抜けな声をあげてしまった。



「…近藤さん?一体何をどう見たらそう見えるんだ…?
わかるように400字以内で答えやがれ」

俺の放つどす黒い空気に、近藤さんは慌てて「まてまて!」とストップをかけた。

「だってなぁ、仲良く見えるぞ?トムとジ○リーみたいだ」

「猫と鼠じゃねーか!ありゃ天敵同士で、全然仲良くねーぞ?!歌だけだろ!」

「まるで夫婦漫才に見えるんだ」

「ふざけんなーーっ!何であんな奴と漫才なんか!」

「トシ、突っ込むところそこじゃないぞ」



ぎゃーぎゃー反論する俺を見ながら、近藤さんは苦笑いを浮かべた。その顔が面白くなくて、むっとする。
どうせあんたから見たら俺はまだガキだよ。あんな野郎に手玉にされてよ。



ぶつぶつとつぶやく俺に、近藤さんの大きな手が俺の頭の上に置かれ、くしゃりと撫でられた。
子ども扱いそのものなのにその感触が心地よくて俺は目を細める。猫だったらきっと喉がなってただろう。


「トシは、ほんとにかわいいな」

ふにっとやわらかいものが俺の唇を塞いだ。啄ばむような軽いそれに焦れて、俺が舌を出してやると近藤さんも舌を出して絡めてくれた。

…気持ちいい。

流し込まれる唾液を当たり前のように受け入れた。



近藤さんの甘えた現象に最近では俺も便乗し始めてた。
嫌じゃないし、むしろ気持ちいいし、近藤さんはいつだって優しい。たまに意地悪くなるけど…。

近藤さんに「どこまでも癒してくれる女の子が見つかったよ」って言われるまで、近藤さんは俺が癒そうと思ってる。
早くいい女が見つかるといいよな。あなたがいい、って結婚してくれる優しい女がさ。

俺はそんな日が来ると思うけどな。

近藤さんのことを本当にわかってくれるいい女はきっと世の中にいるさ。だってよぉ、近藤さんは本当にいい男だから。





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