昨日も。「多串君」っていつもの調子で呼んだらさ、
「……俺はそんな名前じゃねぇ。ばか…」
とか言って淋しそうに目線逸らすから、なんかどぎまぎしちゃった。
うん、知ってるよ。「多串君」の名前くらい。土方十四郎でしょ?
ほんとはぎゅっくらいはしたかったかもしれない。でも辛うじて押しとどめた。
だって男同士でそれは変でしょ?
「なんか、『多串君』って感じなんだよ。イーじゃん、俺しかこんな呼び方しないって、なんかよくね?」
「よくねーよ…。どこの世界にいつまでも間違った名前で呼んでくる知り合いがいるんだ」
「俺の知り合いもいつも名前間違うぜ。金時って呼びやがるんだ。ったくさー、俺が金時だったらこの漫画終わりじゃんねぇ?」
「そのときは俺が主人公やらぁ」
「主人公は銀さん以外務まりません!」
土方はちょっとだけ笑った。俺もほっとした。
なんなの?なんか今日、かわいさに拍車がかかってるんですけど。
あれ?そんな風に見えるの、ひょっとして俺だけ?
「土方…」
なんだかそんなかわいさに励まされて、気付けばちゃんと本名で呼んでた。
大切な感じがしたから今まで口に出せなかったその子の本名を。
土方はびっくりしたみたいに俺を見て。その後こっちがびっくりするような柔らかい顔で
「知ってんじゃねーか…」
笑ったんだ。
やばいやばいやばいやばい、どれくらいやばいかっていうーとまじやばい。
軽く理性が飛びそうになって、そんでも飛ばなくて、偉い偉すぎるよ俺とか自画自賛している間にジミー君に声をかけられた土方はその場を立ち去っていった。
あの、あれだ。あれだよ。これって世に言うさ。
いや、今までなんとなくそうかも?なんては思ってたけど、でも違うよなーとか思って認めなかったんだけどさ。
だって俺も土方も男だし、いやそういうカップルいるっちゃいるけど、銀さんはそっちに全く興味なかったし。
本気でこんな事思ってるなんて、自分自身もよくわからなかったけど。
たった今自覚した。
俺って。
土方のこと、好きだったんだ。
坂田銀時、三十路前。まさかの春到来。
相手は難攻不落の鬼の副長様。
絶対に前途多難だってわかってるのに、おかしいことにそれすらわくわくしてしょうがない。
手に入れることはもう前提。だって俺ってば本気の本気みたいだし。
最近何にも興味をもてなかった俺が唯一興味をもった相手。
これを落とさずに誰を落としますか?もう絶対に逃さない。
かくして、俺の土方への恋が始まった。
続